1億㎡もの農地が住宅地に?!地価が暴落すると噂される「2022年問題」とは

「生産緑地」(都市農地)が住宅地に変わる?不動産業界の2022年問題

不動産業界の中で「2022年問題」と呼ばれる懸念事項があります。空き家が増え続ける中、「2022年に大量の住宅用地が市場に供給されるのではないか」という問題です。

日本の国土は、国や都道府県などがそれぞれのエリアをどのように使うかについて都市計画などによって定めます。市街化区域に該当するエリアは、住宅地や商業地など市街化を促進するためのエリアで、家が立ち並んでいるところのほとんどはこの市街化区域です。

その中で、東京都など都市部であってもポツンと農地が存在する箇所があります。本来であれば、市街化区域のエリアであれば田畑として利用するのではなくて宅地にするように促されます。

なぜこのように部分的に田んぼが広がっている場所があるかというと、「生産緑地」と呼ばれる土地が定められ、市街化区域であっても農地を守る場所が指定されているためです。

今、この生産緑地の制限が解除され、農地として保全されてきた土地が一気に住宅用地に変わるのではないかという懸念が広まっているのです。

農地を保全する「生産緑地」は、税制優遇がある反面、制限(義務)もある

もともと、1974年に公布された生産緑地法によれば、(当時宅地が少なかった時代背景もあり)都市圏にある農地は「宅地並み課税」がなされ、どんどん住宅地化されていきました。

しかし、住宅街にも緑地が必要であることや、農業を生業とする事業者が存在することなどを考慮し、(市街化区域であっても一律に宅地化を進めるのではなく)一定の土地は農地として残そうという動きが起こります。

これが、「生産緑地」(都市農地)といわれるもので、1991年に改正された生産緑地法によって定められました。つまり、市街化区域にある農地には、農地として保全する「生産緑地」と、宅地化を促される「宅地化農地」に分かれるのですね。

生産緑地に指定されれば、普通の宅地に比べて何十分の1~何百分の1にも固定資産税が安くなり(農地課税)、相続税の納税も猶予される優遇措置が設けられています(相続人が死亡すれば猶予税額が免除されます)。

その代わり、30年間にわたり農業を営むことが義務付けられ、農地としての管理が求められます。また、その土地に建てる建物も、農林漁業に直接関するものしかダメなどといった制限も課せられます。

1992年に指定された多くの生産緑地が、2022年に30年を経過する時期を迎え、農業を営む義務から解除されます。そこで、農地から宅地化が進むのではないかと懸念されており、この事態が「2022年問題」と呼ばれているのです。

生産緑地は全国に1.3億㎡!大部分が首都圏、東京都が面積・数ともに最多

国交省の「都市計画現況調査」(2015年)によると、2015年3月末現在で全国に13,442haの土地が生産緑地に指定されています。

ha(ヘクタール)=10,000㎡ですので、実に134,420,000㎡という莫大な土地が農地から宅地へと変わる可能性を秘めているということです。

 面積(ha)割合地区数
(都市数)
割合
東京都3,296 ha25%11,556
(27)
18%
(12%)
神奈川県1,380 ha10%8,830
(19)
14%
(9%)
埼玉県1,793 ha13%7,221
(37)
12%
(17%)
千葉県1,175 ha9%4,153
(22)
7%
(10%)
(関東圏合計)7,645 ha57%31,760
(105)
51%
(47%)
大阪府2,068 ha15%9,589
(34)
15%
(15%)
愛知県1,166 ha9%8,470
(34)
14%
(15%)
(主要都市合計)10,879 ha81%49,819
(173)
80%
(78%)
その他2,563 ha19%12,654
(49)
20%
(22%)
(全国合計)13,442 ha100%62,473
(222)
100%
(100%)

その内訳をみると、主要都市圏を中心に広がっており、東京だけで全国の生産緑地の25%もの土地を占めます(全国1位)。関東圏(一都三県)では約6割、大阪府と愛知県を加えれば実に8割を超えるほど、首都圏に広がっていることが分かります。

生産緑地に指定された地区数でみても、東京都が最も多く2割弱を占め、関東圏だけで半分超、大阪府と愛知県を足した主要都市合計で8割となります。

これらの内、ほとんどが2022年に生産緑地の解除の可能性があるとされており、しかも人の住みやすい場所の土地が多く、一気に住宅地が放出されるのではないかと懸念されています。

【参考】東京都の年間新築戸建て用地の5倍もの住宅用地が供給される可能性あり?

東京都に絞ってみても、面積32,960,000㎡の土地が生産緑地として存在します。

住宅・土地統計調査(2013年)によると、東京都の戸建て辺りの平均敷地面積は「143.78㎡」であることを考えても、約23万戸の戸建て住宅が供給できる計算になります。

尚、2016年に新築された戸建て住宅は、東京都の住宅着工統計(2016年12月)によると長屋立てを含む「一戸建等」が「48,064戸」、国交省の計着工新設住宅戸数(2016年)によると、持家および分譲一戸建てを合計したものが「35,218戸」となっています。

これから、2016年に東京都で新設された戸建ては3.5~5万戸程度と考えられます。

単純計算で、もし一気に生産緑地が宅地として放出されれば、実に年間供給の戸建ての5倍程度の宅地が供給されることになります。なんとも莫大な土地ですね。

農地の買い取りを申し出ても自治体が買い取れない。だから建築 or 売却へ

生産緑地の解除とは具体的にどのようなことを意味するのでしょうか。

生産緑地の指定を受けた農地は、「農業従事者が死亡やケガなどによって農業を行えなくなる」もしくは「30年経過した場合」にのみ、自治体に対して所有者は「私の農地を時価で買い取ってください」と申し出ることができます。

しかし、自治体(市区町村)に財政的な負担がないなど特別な事情があり、自治体が買わない場合には、自治体が他の農家に農地の購入をあっせんします。

生産緑地の解除に関する都市計画手続きの流れ(国交省:生産緑地制度の概要

それでもなお、買取を申し出てから3カ月間にわたって買い手がつかない場合には、所有者は農業を営む義務から解放されます。これが生産緑地の解除を意味し、自由に土地を処分することができるようになるのです。

事実、これまで所有者の死亡などで買取の申し出が行われたことがありましたが、ほとんどのケースで自治体は買い取ることができていないようです。

そのような過去がある中、30年が経過し一斉に買取の申し出が行われた場合に、その大部分について自治体が買い取る余裕はないものと考えられます。空き家が増え続ける中、宅地の一斉供給が始まる可能性があるのです。

後継者不足や固定資産税の急騰に備え、建物建設や土地売却せざるを得ない農家

生産緑地の所有者の視点で考えれば、30年が経過した2022年、①生産緑地の再指定を受けて農業を続ける、②解除し通常の土地として活用、③建築業者などに売却する、という選択肢になるでしょう。

①の場合も考えらえますが、30年前に50歳だった所有者は80歳になっています。今後、営農の義務をまた長年にわたり課されることは不安も多いでしょう。また、後継者不足ともいわれるなか、農業を引き継ぐ人を探すのも一苦労です。

そうなると、自治体に買取を申請するという決断になるのは自然なことです。が、その自治体も他の農林漁業希望者も買い取れない場合には、生産緑地が解除されます。通常の宅地となります。

問題は、解除されてしまうと固定資産税が数百倍に跳ね上がり、さらに相続税を猶予していた場合には利子を上乗せして支払わなければならなくなるということです。

固定資産税の負担軽減や、相続税対策をしたいと場合には、土地に賃貸アパート・マンションなどを建設して、固定資産税や相続税評価額を下げるという節税手法をとる可能性も高まります。これが②です。

もしくは、土地そのものを手放したいという場合には、ハウスメーカーなどの建築業者に③土地を売却します。②または③が多くの農家が取る選択肢と考えられ、都市部で住宅が増えることが予想されます。

一気に宅地化されることはない?過去に宅地化農地は年▲4%と徐々に減少

2022年に生産緑地が解除されると、一斉に売りに出され不動産価格が下がるという論調も多いのですが、本当にそのような事態になるかは見解が分かれるところです。

というのも、もともと宅地並み課税された「宅地化農地」(生産緑地と指定されず、宅地化されることを促された農地)は、過去に(現在の生産緑地の2倍以上の)30,628 ha存在しましたが一気に宅地化されませんでした。

農地として特別に安い固定資産税となる優遇措置がなくなれば一気に宅地とされそうですが、実際には毎年少しずつ宅地などへ転用されていったのです。約22年間で▲60%減(年▲4%減)というペースです。

三大都市圏の特定市における市街化区域内農地面積の推移(国交省)

もちろんこれは過去の推移であり、意欲的な農家の数も現在と異なるかもしれません。しかし、一気に放出してしまうと所有者(農家)としても、買いたたかれ安値での売却となりうま味がありません。

ただ、もし仮に一斉に売り出される場合にも、売り止め(相場が正常に戻るまで売るのを待つ)も一定数発生すると考えられ、調整作用が働くことも期待されます。

一気に宅地化されるというのはあまりにも悲観的な考えといえるかもしれませんね。

生産緑地は22年間で1割程度しか減っていない。今後は、宅地化農地と同様に減少か

生産緑地地区に目を向けてみると、1992年(平成4年)から2015年の間に、「15,109 ha」⇒「13,442 ha」と▲11%しか減っていません。

相続税の猶予といった優遇制度がうまく機能してきたといえるでしょう。

しかし制度導入から25年が経過し、所有者の高齢化や農業の担い手(後継者不足)などから、今後は徐々に生産緑地の面積も少なくなる可能性は否定できません。

30年経過の2022年になって一斉に売りに出されるとは考えにくいですが、生産緑地以外の農地(宅地化農地)に倣って、徐々に宅地として放出されると予想されます。

【参考】相続税の猶予の適用者も、買取申請を決めかねている人も多い

相続税の納税を猶予する制度を利用している農家は、都内でも半数程度といわれています。

猶予されている相続税は、相続人(所有者)が死亡すればそのまま免除されます。それに対して、買い取り申請をすると猶予相続税を支払わなければなりません。

そうすると、そのまま農業を続けて相続税の猶予を適用し続ける人も少なくないでしょう。

また、指定から30年経過する2022年に買取の意思を固めているのは、東京都では10%に満たないという報道もあります。いまだ態度を決めかねていたり、農業を継続する意思のある農家も一定数存在するようです。

このように考えていくと、やはり一気に宅地として放出されるわけではないと考えられますね。

国や自治体が対策。緑地地区の増加や農業の活性化、特定生産緑地の創設も

政府や自治体も、この状況を把握しています。その対策として、2017年2月には「都市緑地法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、第193回国会において成立、6月には公布・施行されました。

これは都市における緑地の保全や緑化などを進めるとともに都市の農地の計画的な保全を図り、良好な都市環境の形成を目的としたものです。「都市公園の再生・活性化」「緑地・広場の創出」「都市農地の保全・活用」を促すのです。

都市の緑として農地も必要であることを確認した法律ともいえ、その中で生産緑地法の改正も含まれています。主に①面積緩和、②行為制限緩和、③特定生産緑地の創設の3つです。あわせて「田園住居地域」という新たな用途地域も創設されました。

主な改正ポイント変化
①面積緩和生産緑地地区の要件を「500㎡以上」⇒「300㎡以上」に緩和(市町村が条例で定める必要あり)
②行為制限緩和農業に直接必要な施設のみ建設可能⇒加工施設や直売所、農家レストランの設置可と緩和
③特定生産緑地の創設自由に買取申請可能(行為制限解除)⇒買い取りの申し出時期を10年延長可能(市区町村が所有者の同意を得て指定)
田園住居地域の創設農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護する用途地域として、新たに指定

①の面積緩和によって、生産緑地地区を(小規模農地を含めて)もっと増やしていこうとしています。ただし、生産緑地の指定を解除できるまでが30年というのは変わりません。今から30年というのはやはりハードルが高く、どこまで普及するかは不透明です。

②は、直売所で新鮮な農産物を販売したり、農林漁業者(1次産業)×食品加工(2次産業)×流通・販売(3次産業)で農業を活性化させる「6次産業化」を試みたりすることを目的としています。

農業の経営の幅が広がり、ひいては農家の収入向上につながることを期待されています。

農地(生産緑地)を貸しやすくなる?不動産の2022年問題を乗り切る国の対策

特定生産緑地で10年間生産緑地の期限を延長。ただ、所有者が及び腰になる懸念も

一番の目玉は、③「特定生産緑地」制度の導入です。

30年が経過しようとする生産緑地の内、市区町村が(所有者の合意を得た上で)農地として保全することが良好な都市環境に有効と判断したものを「特定生産緑地」として指定するものです。

その場合、買取りの申出が可能になる期日が10年後に延長されるようになります。

つまり、30年経過する2022年ではなく、さらにその10年先の2032年まで生産緑地の解除を先延ばしすることができます。10年経てば、さらに10年更新されることもあります。

これによって、30年経過後の2022年に買取の申請をある程度抑える効果は期待できますが、特定生産緑地に指定するかどうかを決定するのは市区町村です。特定生産緑地と指定する事情がなくなった場合には、すぐに指定が解除されることもあります。

自治体の判断で生産緑地の延長や解除を指定できるようになるともいえ、慎重な判断が求められ特性生産緑地の指定に対して所有者が及び腰になる可能性もあります。

過去の経緯や優遇税制を見れば2022年問題はそれほど懸念しなくてよい?

首都圏に広大な農地が存在し、それが2022年に一気に大量放出されるかもしれないという懸念がある「2022年問題」。

本当に一気に宅地が供給されれば、東京都だけでも戸建てが20万戸以上を建築できる土地が出てくるということであり「価格が暴落する」と主張することも一理あるでしょう。

しかし、過去に宅地並み課税された農地は、15年ほどかけて半減するペースで農地が減少してきたことを考えれば、一気に放出されることは考えにくいともいえます。

また、現在生産緑地に指定される所有者の半分程度が、相続税の猶予を受けています。

30年経過し買取申請できる(制限が解除できる)ようになったからといって、猶予税額に利子を上乗せしてあえて相続税を支払う農家が多いとも考えにくいものです。

国も自治体も対策に乗り出した。都市農地を生かした街づくりを考えるチャンスに!

国や自治体は、都市部にある農地が住宅地に変わるという懸念に対して、都市農地を生かした街づくりを行い、都市部の貴重な緑地空間として農地を積極活用しようとしています。

緑地地区の帰省を緩和してまで新規の生産緑地を増やそうとしており、また、農家レストランの建設などを許容するなど農業経営も活性化させようとしています。

「特定生産緑地」という新たな制度を導入、自治体が主導して行為制限の解除を10年先送りすることも可能としました。これも、生産緑地を維持することに貢献するでしょう。

ただ、これらがどれほど効果的かは今現在で推し量ることは難しい状況です。農業の活性化や後継者不足といった構造的な問題の抜本的な改善も含め、さらに規制緩和がなされることが期待されます。

2022年問題を悲観的な問題(ピンチ)と捉えるのではなく、むしろこれからの時代の街づくりを考えるチャンスにしたいですね。今後の動きに注目しましょう!

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