なぜ災害リスクは不動産価格に影響しない?家を買う時の注意点とは
洪水などの災害リスクが高いエリアでも不動産価格が下がらない理由
近年、ゲリラ豪雨や台風、土砂災害など自然災害が多く発生し、特に豪雨災害が激甚化(げきじんか)・頻発化しているともいわれています。
短時間豪雨の発生回数や土砂災害の発生回数も近年増加しており、鬼怒川や最上川などの一級河川は氾濫、丘陵・山地では土石流によって多くの方の命が失われる災害も発生しています。
このような中、意外に思われるかもしれませんが、様々な研究や事例をみても、洪水や液状化、土砂崩れなどの災害リスクは不動産価格に織り込まれていないとされています。
もちろん、大きな災害が報じられれば一時的に価格が下がることはあります。ただし長続きせず(せいぜい数年間程度)、価格は元通りになる傾向にあります。
災害リスクに物件価格に反映されない理由はさまざま指摘されていますが、以下などが考えられます。
①多くの人が災害リスクを認識しておらず、自分には無関係と思っているから
②災害リスク以上に利便性が上回り、人気エリアは高値で買われるから
③災害リスクの評価や価格への適正な反映が難しい
そして価格に織り込まれないということは、自分自身で積極的に調べないと、災害リスクを知らないまま取引がなされ新生活が始まる可能性も十分あるということです。
ここでは、災害リスクと不動産価格の関係をみた後、災害情報の調べ方や取引における心構えをみていきましょう。
目次
①多くの人が災害リスクを認識していない。知る機会も少ない
「まさか自分の家が被災するなんて…」「洪水ハザードマップを見ていれば避難できたのに…」こういう声はよく聞かれます。
日本は災害大国だといわれても、目に見えませんし、カウントダウンが始まり明確に発生時期が予見できるわけでもありません。災害リスクを具体的に理解・認識できないことはやむを得ない面があります。
そして多くの人が災害リスクを認識していなければ、価格に反映されません。
災害リスクは目に見えるものでもないため、売主も買主も意識せずそのまま契約が進むことに何の疑いを持たなくとも無理はないのです。
仮に災害リスクを理解はしても、「自分には関係がない」と思い込めば、やはり災害情報は意味をなしません。
家を買う時にも「ここは川が近いから災害も起こるかもね。でもその分、自然の良さを感じられるエリアだしいいこともある。まあ自分のところは大丈夫でしょ」という軽い雰囲気で住宅購入することになるでしょう。
物件の担保評価でも災害リスクは考慮しない。不動産広告でも災害表記なし
銀行などの金融機関も、住宅ローンにおける担保評価の際に一般的には災害リスクを加味しません。
取引関係者が誰も災害リスクを気に留めることなく話が進むため、価格へ反映される機会を失っているということができます。
不動産広告でも、「活断層から1km圏内」「洪水での浸水履歴あり」「液状化の可能性が高いエリア」などという表記は一切ありません。
住宅購入者が災害に関して知る機会が圧倒的に少なく、意識する場面がほとんどないのが実態です。
尚、2020年には重要事項説明において水害リスクの説明が義務化され、知る機会が増えたのも事実です。この水害リスクの説明義務かどれほどの効果を与えるかは今後注目していきたいところです。
②利便性の高い人気エリアは買い手が多い。災害リスクより需要が上回る
利便性の高い人気の好立地では、災害リスク以上にその土地が欲しいという需要が高いために、価格が下がらないという考え方もできます。
特に大昔より、海や川の近くから発展してきたこともあり、便利なところは水害と隣り合わせであることが多いのも事実です。
災害大国とも揶揄される日本は、その多くが災害リスクにさらされています。いちいち気にしてられないという考え方もあるでしょう。
例えば、南海トラフ巨大地震での想定被害はたびたび報道されますが、だからといって、危険とされるエリア一帯の地価が急落することはありません。どうせ災害リスクにさらされるなら、便利な立地に住む方が得策だという考えもあるでしょう。
また、東日本大震災で液状化が発生したことで有名になった新浦安エリアでも、数年間は一時的に価格が下がっていましたが、今や人が戻り、公示地価水準や物件価格も回復しています。
浦安市は都心部までのアクセス性がよく(東京都心まで20分で通勤可)、利便性の高さは評価が高いポイントです。市の財政も安定し、行政サービスの満足度も高く住みやすい街です。
やはり、利便性が優先される構図は変わらず、駅近などの立地条件が価格を決まっているのです。
安値で取引される土地は不便な立地や危険が明らかな場所であることが多い
災害の危険性が高いエリアの土地が、安値で取引されているケースももちろん多くあります。
ただし、それは好立地ではないエリアの話です。または急斜面や河川の隣、崖地など、明らかな危険がある土地です。
災害リスクが適切に反映されているとは言い難く、購入するうま味が明らかに少ないため、多くの人がその土地は避けたがるようなケースです。
逆に、都心などの好立地であれば、安全ではないとされるエリアでも通常通り売買されます。やはり利便性が優先されるのです。イメージとしては以下のようになります。
【土地の評価】 | 好立地 | 好立地でない |
---|---|---|
安全なエリア | ◎ | △ |
安全でないエリア | 〇 | × |
例えば、区内の多くが海抜ゼロメートル地帯である江戸川区では、2019年に水害ハザードマップを改定し、「ここにいてはダメです」との強烈なメッセージを発信し話題となりました。
その後、江戸川区の地価が急落したという話は聞きません。住みやすい街としての評価を揺るがすことなく、不動産取引がなされているのです。
③災害リスクの適正評価が難しい。不動産価格への適正な反映も難しい
自然災害は予想することが極めて難しいとされています。
特に近年では、想定を超える被害が発生しており、その予見の難しさから保険の値上がりや契約期間の短縮なども行われています。災害を予想するプロでも難しいのが自然災害といえます。
また、適正な災害評価ができても、不動産価格へどのように反映するのかというのも難しい問題です。
例えば水害と言っても、河川氾濫や豪雨、液状化などその現象はさまざまです。どの種類の災害をマイナスに評価するのかも単純ではないでしょう。
例えば、液状化現象が起これば確かに住宅に大きな被害をもたらしますが、「液状化では死なない」ともいわれます。
地震のS波(横波)は液体中を伝わることができず、液状化によって免振の役目を果たし、地震の被害を軽減するためです(実際には液状化による死者は存在します)。
死者数が少ない災害の価格を小さくするとすれば、液状化リスクのある土地は価格下落が少ないという結論も一理あるといえますが、それを一般的に受け入れられるかは賛否両論あるでしょう。
水害ハザードマップの説明義務化も、自主的に災害の危険性を知るのが安全
災害リスクは住宅価格に反映されにくく、不動産価格に影響を及ぼしにくいことが分かりました。
そうであれば、自主的に購入予定物件のエリアの自然災害リスクを知る必要があります。価格情報を通じてハザード情報を認識する機会がないためです。
尚、大規模水災害の頻発により住宅にも甚大な被害が及んでいることを受け、不動産業者が取引時に住宅購入者に対して水害ハザード情報を説明することが義務化されています(2020年7月17日公布、同年8月28日施行)。
具体的には、水害ハザードマップ(洪水・雨水出水・高潮)を提示して物件位置などを指し示して説明するものです。
ただ、説明義務の対象となる災害の種類が限定されていることや、どこまで詳細に説明されるかは業者任せである可能性もあります。
やはりできるだけ自分で災害情報を理解しておくことが安全でしょう。
「重ねるハザードマップ」は多くの災害情報が分かる。仲介業者にも説明を求める
ご自身で調べる際には、例えば「重ねるハザードマップ」を利用すれば、災害情報や道路情報、災害地理情報などが取得できます。
また、不動産仲介業者に積極的に説明を求めることも効果的です。水害ハザードマップの説明が義務化されたこともあり、買主さんからの質問をないがしろにできません。
水害ハザード情報以外にも、どのような災害リスクがあり、想定被害はどの程度予想されているかなどを遠慮なく聞いてみることをお勧めします。
ちなみにミトミでは、義務化される前より地震、活断層距離、浸水、液状化、津波、土砂災害、土壌汚染、地形分類、過去の土地利用履歴、避難場所、それぞれの被害想定などを情報提供しています。
仲介業者によって対応に温度差はあると考えられますが、自分でも調べ、仲介業者にも聞いてみるという二重の対応を行うことで少しでも理解を深めましょう。
さらに、契約時に売主から開示される「物件状況確認書(告知書)」を利用し、購入物件が過去に浸水などの被害にあっていないかなど、物件固有の被災履歴もしっかり確認することを忘れないことが大事です。
日本は居住エリアの大部分に災害リスク。被災ゼロは不可能、災害に備える
災害リスクの高まりや、それを積極的に知ることの重要性をご説明しました。
ただ、誤解して欲しくないのは「災害リスクのあるエリアの家を買ってはいけない」ということではないということです。
そもそも、日本はそのほとんどが何らかの災害リスクにさらされています。日本全国で、4大災害(洪水・土砂災害・地震・津波)に影響される人口は、日本全国の約7割です。
さらに、一都3県でみると東京都94%、神奈川県は92%、埼玉県90%、千葉県98%と、90%超にも上る人が災害リスクのあるエリアに居住していることが分かっています。逃げ場がない状況なのです。
国土全体の面積に対する災害エリア面積の割合ではありません。人が居住しているエリアに対して、どれほど災害リスクがあるかを試算したものです。
つまり、日本人の多くは災害リスクの高いエリアに住んでいるということであり、利便性と災害リスクは表裏一体であることがよく分かる結果となっています。
これからも分かる通り、災害を過度に気にしてしまって被災リスクをゼロにしようと居住場所を選ぼうものなら、災害大国日本において住む場所がなくなってしまうのです。
災害の種類を知り、避難場所を確認。火災保険や地震保険も利用して万一に備える
災害リスクをゼロにすることよりも、自然災害は発生するという前提でそれに備えることが重要です。
どのような災害に弱いエリアなのかを理解し、土壌改良など建築技術での対応が可能であれば検討することも一つです。
また、万が一の事態に備え、避難場所の確認や防災グッズの準備も実施しておくことが望ましいでしょう。さらには、火災保険や地震保険への加入で金銭的な補償をカバーすることもできます。
尚、国や企業も防災投資を行い災害対策を継続して行っています。
実際、阪神・淡路大震災と東日本大震災では多数の犠牲者を出したものの、過去には数千人規模の死者数を出していた台風や水害による死者・行方不明者は抑え込むことに成功しています。
日本に住む上では避けて通れない自然災害。過度に恐れず、軽視もせず、誠実に向き合って暮らしていきましょう。
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