コンパクトシティの誤解とは?超長期・複合プロジェクトゆえの賛否両論
目次
「コンパクトシティ+ネットワーク」で行政サービスを維持する
急激な人口減少・少子高齢化がもたらす弊害は多く指摘されています。
不動産の視点からいえば、この現象がもたらす課題の一つは、人口密度の低い市街地を形成することです。ポツポツと点在した住宅が広範囲に広がるというイメージです。
そうすると、居住者が点在することになり、生活を支えるインフラや行政サービスの提供におカネがかかるのです(人口密度・高齢化率と一人当たりの行政コストは相関が高いこともわかっています)。
ただでさえ、財政状況が厳しい中、最低限のサービスも行き届かない恐れが出てきます。地域を持続可能なものとすべく、ツギハギの対症療法ではなく(少し大げさにいえば)都市を作り直し抜本的にタウンマネジメントをしていかなければならない状況なのです。
その解決策として「コンパクトシティ+ネットワーク」という概念が打ち出されています。これに対する誤解や判断も大きく分かれているのが実態ですが、ここでは3つの視点でみていきましょう。
①一極集中を目指すのではなく、多極をネットワークで連携する
「コンパクトシティ+ネットワーク」は、生活拠点を集約したコンパクトな街づくりを軸として、それらを公共交通機関などで互いに結び合うというものです。
交通の利便性が高い(親和性のある)地域などへ「居住促進エリア」を決め、都市機能の集約するのです。
中心街を活性化すればいい(一カ所に集めればいい)ものではなく、複数の拠点を作りそれぞれが身近な範囲で日常生活が送れるようにする「多極ネットワーク型」のコンパクトシティなのです。
例えば、バスターミナルや大型商業施設などを集約した複合施設を整備した「中心拠点」の周りに、生活に必要な医療・福祉施設や中小規模の商業施設、交通機関の乗り継ぎ施設などを配備した「地域拠点」を分散して配置、それぞれの拠点の人口密度が一定レベルに保つようにします。
公共交通機関は拠点間を結ぶ重要な移動インフラの役目を果たすことに加え、高齢者が急増することを念頭に、自動車のみに頼ることなく移動できる手段を確保する意味もあります。今後、1階部分が病院であるような大規模マンションも増えていくかもしれません。
②強制的に集約するのではなく、時間をかけて居住エリアを誘導する
立地適正化計画に代表されるように、自治体は人が住むエリアをコンパクトにしたい(一定の地域内で人口密度を維持したい)思いがあります。
ただし、あくまで誘導するものであって強制的に集約していくものではありません。
立地適正化計画においても、居住誘導区域外にマイホームを建てられなくなるわけではないのです。
そして、このコンパクトシティ+ネットワーク構想は数年という短時間で完了できるものでもしようとしているわけでもありません。超長期的なプロジェクトです。
③現段階で失敗・成功の判断は困難。複合要素が絡み合い、賛否両論あり
コンパクトシティはただ大型複合施設を作ればいいものでもなければ、人を移動させるだけのものでもありません。
有機的に拠点間を結びつけ、街全体を効率的に運用する経済圏を創り出すものでもあり、雇用創出を含めさまざまな要因が絡み合うものです。
理論だけではうまくいくものではなく、「利便性の高いところより住み慣れた郊外で、車で移動する生活を続けたい」という要望もあり、住まう場所の自由は優先されるべきものでもあります。
多額の税金が投じられ「ハコモノ行政だ」とその効果を疑問視する声や、青森市や富山市などを「失敗事例だ」として扱う意見もあれば、「今は過渡期であり判断することは時期尚早だ」「そんなに早い話ではない」と反論する向きもあります。
コンパクトシティそのものにも賛否両論あり、またなにが本質と捉えるかによってもその成否を判断することは難しいのです。
資産価値(将来の転売価格)を重視するなら利便性の高い立地の物件を
大切なのは、その地域(郊外)の未来とそこから生まれる課題を全員で共有し、長い目でみてなにがベストな選択肢かを住民一体となって考えることでしょう。
今のままそこに住み続けた場合に、行政サービスがおろそかになっては基本的な生活さえ立ち行かなくなってしまう恐れがあります。すべてを満たす解決策がない中、自治体が主導しつつ住民が納得する方法で解決していきたいものです。
新たにマイホームを購入する視点でいえば、不便な立地にある郊外住宅を買った場合、資産価値(将来売却する時の値段)が大きく毀損する可能性があります。
もちろん、金銭的なメリットを超えた目的があれば郊外住宅の購入も可能です。
しかし、利便性の高い地域や、立地適正化計画が示された場合には居住誘導区域内に住宅を購入することが家にもローンにも縛られない生活を実現する第一歩でしょう。ここでも長い目でみたあなたのライフプランと一緒に考えてくださいね。
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