住宅制度は完璧じゃない!アパート階段事故から学ぶマイホーム購入の落とし穴

アパート階段崩落死亡事故からマイホーム購入における教訓を読み解く

宅建士つっちーです。みなさんは、東京八王子市の賃貸アパートで起きた痛ましい事故をご存じでしょうか?

2021年4月17日、築8年と比較的新しい賃貸アパートの外階段(踊り場と2階通路をつなぐ鉄製階段)が崩れ落ち、住人の女性が転落しお亡くなりになりました。原因は、踊り場に使われていた木材の腐食とみられているそうです。

その後、このアパートを建築した「則武地所」(神奈川県相模原市)のずさんな施工や対応が次々と明るみに出ており、第三者機関が実施した建築確認検査も含め、幅広い点で課題が浮き彫りになっています。

さらに、施工会社の則武地所が事件から1カ月と経たないうちに(5月13日に)自己破産に踏み切ったことで、アパートオーナー(所有者)からの請求を逃れることを目的ではないかといった非難の声もでています。

尚、実際には破産手続きをしても、重大な過失とみられる施工不良に基づく損害賠償請求権は免責されない可能性も十分あり得ます。

しかし、免責されずにアパートオーナーが損害賠償請求権を引き続き確保できたとしても、お金を則武地所が持っていなければどうしようもありませんよね…。

これらは賃貸アパートでおきたものですが、この事件には、これからマイホーム購入される方にも関係が深い事柄を多く含みます。

ここでは、この事件そのものについてではなく、マイホーム購入を検討している方向けに、この事件から読み取れる教訓や、皆さんに気を付けて欲しい点・知っておいて欲しい点を私なりにご説明します!

【教訓①】業者が破産しても新築住宅は10年保証!でも条件や制約に注意

この事件では、則武地所が施工した他の多くの物件でも致命的な不具合が複数見つかっています。

アパートオーナー(賃貸アパートの買主さん)は、則武地所が破産してしまえば、補修費用をすべて自腹で支払うことになるのでしょうか?実際に新築住宅を買う人は何をしっておくべきでしょうか?

結論からいえば、住宅を宅建業者(事業者)から購入した個人の買主さんは、業者が倒産しても補修費用を後からもらうことができます。ただし、制限や例外に注意しなければなりません。

具体的には、住宅瑕疵担保履行法と住宅品質確保促進法(品確法)によって、たとえ建築事業者が倒産・破産しても買主さんは守られています。

新築住宅における10年保証

【売主】宅建事業者等の事業者

【期間】新築住宅を引渡してから10年間

【箇所】構造耐力上主要な部分(基礎や柱、壁など)、または、雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁など)の瑕疵(キズ・欠陥)

【費用】売主や施工会社等が無償で補修(売主側が負担)※支払額に上限あり

【資力確保】事業者は倒産時にもお金を引き渡せるよう、事前に一定のお金を供託するか保険に入る義務がある(保証金の供託または瑕疵保険の締結)

この住宅瑕疵担保履行法によって、新築住宅の不具合を10年間は売主業者が無償補修することを義務付けているため、ある程度は安心できます。

会社が倒産しても、あらかじめ預けられている保証金をもらうか、または、事前に事業者負担で契約されている保険金を請求できるからです。

売主が個人・中古住宅では10年保証なし。保証箇所は家の重要部分に限定される

しかし、上記の条件をよくみていくと、お金を請求できないケースや一部分しかお金をもらえないことがあります。

例えば、売主が「個人」である中古物件のケースです。これらのケースでは、10年保証はありません。

また、事業者に補修を義務付けているのは、引き渡されてから最低10年間ですから、10年を経過して発覚した場合には保証対象外となる可能性があります。

さらに、10年保証とされているのは、基礎や柱、壁、屋根など、「構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分」に限定されています。要は、家の重要部分に限って保証されています。

つまり、業者が売主の新築住宅等を取引する時は、家の重要部分に限って10年間保証されます(宅建業者が倒産しようとも事前にお金を確保しています)。

ただし、保証の対象となる期間や箇所は限定されているということを知っておきましょう。

ですので、「欠陥があっても、不動産業者が倒産しても大丈夫」なのではなく、そもそも欠陥のない住宅を買うことがなにより大切なのです。

【参考】則武地所事件では共用階段が構造耐力上主要な部分等に該当しない可能性

今回の八王子のアパート階段崩落死亡事故に戻ると、則武地所(売主)が施工した物件を買ったオーナーさんは、費用請求(供託金または保険請求)できないかもしれません。

それは共用階段が「構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分」に該当しない可能性があるためです。

加えて、則武地所が一旦、同社の役員個人へアパートを売却し、その後、買主さんとの間で個人間売買としていた疑惑もあります。

要は、瑕疵担保責任を負う宅建業者としての取引ではなく、個人間の取引とすることで、瑕疵担保を免責しようとしている可能性も指摘されています。

もちろん、則武地所が破産手続きをしておらず、資力も十分あるのであれば、民法上の契約不適合責任を追及できるはずです。

しかし既に破産手続きをしており、総額6億円ともいわれる負債を抱えており、現実的には責任追及(費用請求)は難しいと考えられます。

【教訓②】建築確認や完了検査だけでは欠陥住宅を事前に見抜けない

家が新築される際、家を建てる前・建築途中・建築後に検査が入ります。

現在売り出されている新築住宅は、これらの検査をすべて合格した物件です。しかし、これらの検査にも限界や課題があるのも事実です。

まず、設計段階で「こんな家を建てるつもりです」という建築確認申請書を役所に提出し、許可をもらう必要があります。

次に建築確認済証が交付された後、実際に住宅着工していくわけですが、一定の住宅では、建築途中で「実際に申請したものと同じものが作られているか?」という中間検査も入ります。

そして建物が完成したら、完了検査を行い「申請通りに建築されています」ということが確認されれば、検査済証が発行されます。

過去には検査済証のない家も多くありましたが、現在ではほぼ全ての住宅は検査済証が発行されており、基本的にはそれをもって適法に建てられた家とみなされます。

今回の階段崩落死亡事故のあった賃貸アパートでは、建築確認申請も通過し、中間・完了検査も無事クリアしていました。

なぜこのアパートの施工不良が見落とされたまま検査済証が発行されたのでしょうか?

中間検査・完了検査は建物すべてを詳細にチェックするわけではない

本来、建築確認申請をした通りの設計書・仕様通りに建物を作れば、なにも問題ありません。

しかし、実際に建てられた住宅と、完成した家は違うことがあるため、完了時に検査をします。しかしこの完了検査は万能ではありません。

家が建ってから検査するため、見える部分を検査するしかありません。建物を破壊して検査するわけにはいかないからです。

もちろん、一定の住宅では(今回の賃貸アパートでも)建築途中で中間検査が入りますが、すべての工程をチェックするのではなく、一部の限られた工程のみです。また、通常の戸建て住宅のような規模では、通常、中間検査もありません。

要は、検査は一部分のみで、かつ、性善説で行われているといえます。見えない部分は設計書通りに作られたという前提で話が進んでいくのです。見えないところは分からないのです。

言い換えれば、検査済証が交付されても、それは「検査時には家に不具合を見つけらなかった」だけであり、「不具合や欠陥がないとは言い切れない」のです。

どれだけ設計図書が完璧であっても、実際に施工する大工さんが手抜き工事をすれば、それが検査で見落とされればそのまま住宅が販売されます。

完全に見抜くことができる体制が整っているわけではなく、行政が発行する検査済証も100%安心できるものではないことを知っておいてください。

尚、事故のあった賃貸アパートでは、建築確認や中間・完了検査に問題がなかったかを警視庁は調査する方針です。問題・課題が明らかになるといいですね。

【教訓③】物件価格は安すぎてもダメ!外観や設備などに惑わされない

今回の痛ましい事故が起きた物件以外にも、則武地所施工の物件は166棟あるとされ、その多くで不具合がみつかっています。

しかしなぜこれほどまでに則武地所の物件(投資アパート)は売れ行きが良かったのでしょうか。その大きな原因として、価格の異常な安さと、外観のオシャレ感があげられます。

具体的には、則武地所の物件は類似の賃貸アパート相場より2割程度価格が安く、その分、利回りがよかった(買主である投資家が喜んだ)といわれています。

また、アパートの外観は奇麗に仕上げていたようです。目に見える表面的なところは、いい感じに取り繕って安心感を与えていたようです。

しかしながらその実、価格を安くした以上に手抜き工事を行い、外観など目に見えるところはデザインでごまかしていた、といえる結果となっていたのです。

価格の妥当性チェックは必須!建物は目に見えない箇所こそ重要

価格は高すぎるのはもちろんですが、安すぎてもいけません。安さの裏には必ずそれ相応の理由があるのです。

例えば物件自体には問題がなく、単に売主が売り急ぐ事情があるため、価格が安くなっているケースはOKです。

しかし、建物の品質に関係する部分で安くなっているのであれば、安物買いの銭失いとならないよう慎重な判断が求められます。

そのためには、価格の妥当性チェックを必ず行い、そもそも価格水準が異常でないかは事前に検証するよう不動産会社にお願いしましょう。

また、設備や外観など表面上の奇麗さやオシャレ感に惑わされて住宅購入を失敗するケースは後を絶ちません。

基礎や躯体に問題はないか、断熱材はきちんと入っているか、防水機能はOKか、など、目に見えない箇所こそ住宅の品質を決める重要部分です。

場合によっては建築士のインスペクション(建物状況調査)を活用するなどして、建物の見た目やイメージのみで購入判断をしないようにしましょう。

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【教訓④】住宅の定期的なメンテナンスは買主の自主的な実施が必要

家は時間の経過とともに劣化していくものです。風雨にされされ、地震や台風などがあれば外圧を受け、目に見えない劣化を始めます。

どんなに新築時に素晴らしい家にみえても、住んでいるうちにどこかしら不具合が出てくるものです。また、建築当時に欠陥があっても定期的なメンテナンスで不具合が発覚すれば事故が起きる前に修繕できます。

だからこそ定期的な検査・メンテナンスが重要なのです。

その点、建築基準法(第12条)では、建物の所有者や管理者に、建築士などの有資格者による定期的な建物調査と報告を義務付けています(12条点検)。

しかし12条点検が義務付けられてる建物は、国や地方自治体が指定する一定の建物に限られています。

今回の賃貸アパートは3階建てであり、東京八王子市が指定する基準(5階建て以上・床面積1,000㎡超)に該当せず、定期的な検査をしなくてもいい物件となっていました。

自宅の検査は自主的に実施する。特に戸建ての場合には誰もやってくれない

マイホーム(個人の住宅)の場合、法律で点検義務があることはほとんどないでしょう。

建築基準法の12条点検は、ホテルや病院、商業施設など不特定多数が利用し、万が一事故が起きた場合に甚大な被害が想定される特別な建築物が指定されるためです。

マンションであれば、マンション所有者の集まりである管理組合(が委託した管理会社)が、定期的な建物管理をやることがほとんどです。管理費・修繕積立金も強制的に徴収されます。

しかし戸建ての場合には、完全に所有者に任されています。目視確認でいいので、定期的に、そして台風や地震の後などにも、チェックしておくだけで随分と違います。

家の傷が浅いうちに補修しておけば大事故にもつながりませんし、補修費用も安く済みます。定期点検と計画的な修繕費の積立をしておくと安心ですよ!

信頼できる不動産会社と一緒に、安心安全な不動産取引を!

賃貸アパートでの死亡事故から、マイホーム購入における教訓をお伝えしました。

不動産取引は、大きなお金が動くものでありながら、その品質の見極めが難しいところが多く、購入者自身でもよく分からず取引しているケースもあります。

法整備も完ぺきではなく、今回のような痛ましい事故は過去振り返っても多く起きています。

マイホームを購入する際に、少しでも「ちょっと変だな。違和感があるな」と思うことがあれば、きっと何か危険の潜む取引をしようとしているのかもしれません。

住宅取引をする時は、信頼できる不動産会社(不動産のプロ)と一緒に、安心安全な取引をしてくださいね!

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