不動産鑑定士が人口減少かつ高齢化!中古住宅の取引ができなくなる?

米国では当たり前の鑑定士。日本でも既存住宅売買の活性化に伴い役割拡大

現状として、家を大切に使っても新築時から25年経てば建物価格がゼロと評価されることが慣習として根強く残っています。

メンテナンスした分、建物価値を適正に評価に反映する仕組みを作らなければ既存(中古)住宅を大切に使おうという動機が働きません。

アメリカの不動産売買においては、州が許可したアプレイザー(Appraiser:不動産鑑定士)が修繕履歴や設備状況なども加味した上で類似取引や再建築価格、収益還元法などを基に一つ一つ算定することが当たり前に行われています。

しかし日本では、現状として中古住宅の売買自体がマイナーであり、さらにそこに鑑定士が介入することはほとんど行われていません。

中古住宅の取引が活性化する過程において、査定のプロである鑑定士の役割は増し、これからますます不動産鑑定士の重要度は増していくことが予想されます。

不動産鑑定士の申込者数・受験者数と合格者数は急減。平均年齢も上昇

2016年10月に国交省が発表した「不動産鑑定評価の現状」などによると、鑑定士試験の申込者数や受験者数は10年間でおおむね1/3の水準にまで減少しています。

申込者数の減少に反して、合格者数はこの10年間は年間100人前後で安定的に推移しているといえますが、15年前には年間400人弱の水準だったことを考えると、約1/4にまで減少しているともいえます。

申込者数と合格者数の推移(国土交通省:不動産鑑定評価の現状)

申込者数の年齢別割合の推移をみても、すべての年齢層の申込者数が減少傾向です。さらに、40歳未満の割合が減少しているのに対して、40歳以上が上昇しています。

申込者数と年齢別割合の推移(国土交通省:不動産鑑定評価の現状) ※棒グラフは申込者数(左目盛り)折れ線グラフはその割合(右目盛り)

合格者の平均年齢も35歳(2016年度)と10年目と比べて約5歳上昇しており、鑑定士が人口減少・高齢化の波にさらされている様子がうかがえます。

2017年2月22日には、国交省と日本不動産鑑定士協会連合会が、不動産鑑定士の仕事の意義や魅力、試験制度を説明するセミナーを初めて共同開催したほどです(2月28日付日本経済新聞夕刊)。

国交省は若者層や他業界にも門戸を広げ、幅広い人材確保に努めている

2015年6月に国交省は「不動産鑑定士試験実施の改善について」を公表、学生などの若年層や不動産分野での職歴経験がない人も鑑定士にチャレンジしてもらいたいとしています。

試験関連情報などの充実や、試験内容を「基本的な知識・理論及びその応用能力を十分に身に付けていれば短期合格が可能となる」よう変更しています。

例えば情報の充実については、国土交通省ホームページで過去5年分の試験問題公開や、上で述べたようなセミナーの開催に加え、鑑定士の仕事をPRする動画をインターネットで公開しています。

一方で「試験合格後の実務修習や資格取得後の研修について充実を図り、不動産鑑定士の資質の維持・向上に努めていく」ことは忘れておらず、優秀な人材確保とその育成の両立を図っています。

実務経験や知識がなくても解ける問題を増やす。基本を理解した人材を育成する方針

試験内容の具体的な変更方針については、具体的な場面を想定して実務上の取り扱いや留意点を問う問題のように、実際に経験した人でないと解答が難しい問題を削減しています。

逆に、鑑定評価手法の意義や一般論として各種法の適用で気を付けるべき点など、不動産鑑定評価基準などの理解や基本的な応用力があるかどうかを試す問題を増やしています。

また、鑑定評価の計算量をこれまでより削減した問題を出す意向です。

細々した実務がこなせるかどうかよりも、その考え方を理解した人材を確保し、具体的な計算などはその後で経験する実務や研修などで磨いていく方針なのですね。

鑑定士には中立性が強く求められる。依頼主の「言い値評価」で利益相反も

不動産鑑定士は、中立の立場で公正な評価が強く求められます。

鑑定士の評価は、銀行や税務署、投資家などに提出さる大事な場面で使われます。「大きな融資を受けたい」「節税したい」など依頼主の私情にあわせた評価を行うよう圧力がかかることは容易に想像できます。

そして残念なことに、実際に依頼主の利益を優先して、不動産を過大または過少に評価して懲戒処分を受けた鑑定士は少なからずいるのです。人員確保と倫理面含めた質の両方を確保していくことは今後の課題となっていくでしょう。

中古住宅取引においても「住宅ファイル制度」など鑑定士の役割が拡大する中で、依頼主である売主が「高値で売りたいから良い評価を頼むよ」と言われ、実態を歪めた査定をしてしまえば制度自体の信用問題になってしまいます。

弁護士や会計士と並ぶ3大国家資格といわれる不動産鑑定士。これから始まる中古住宅の取引活性化の要として、不動産業界を盛り上げていくを期待します!

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