インスペクションできない?!売主が中古物件の建物調査を拒否する5つの理由
目次
インスペクション法案が施行されて5カ月、徐々に浸透しているが課題も
2018年4月にインスペクション(建築士による建物状況調査)を促す改正宅建業法が施行されました。
インスペクションとは、建物に雨漏りやシロアリの有無、構造上重要な部分に大きな劣化や不具合がないかなどを調べるものです。それを調査するのは建築士で、目視などの非破壊検査を行います。
インスペクションを行うことで、中古住宅の劣化状況や安全性を推測することができ、中古の一戸建てを購入される方はぜひ実施したいものです。
さて、改正宅建業法が施行されて5カ月、取引の現場では多くの課題がみえてきたと感じています。
徐々に浸透されているものの、いまだ多くの物件で売主側が検査を拒否したり、そもそも不動産会社がインスペクションをやりたがらない事例が散見されます。
ここでは、インスペクションの実施をなぜ拒否したがるか、その理由をみていきましょう。
建物調査の情報が記載され始めた。売主・買主共にインスペクション不可の物件も…
最近は、物件情報の備考欄にインスペクションに関する記載があるものが増えてきました。
そこに記載されている内容は、大きく4つに分かれます。
- 売主にてインスペクション実施済
- 売主にてインスペクション実施予定
- 売主にてインスペクション実施予定なし・買主による実施は可(買主費用負担)
- 売主にてインスペクション実施予定なし・買主による実施も不可
この中で問題となるのは、一番下の「売主も買主もインスペクション実施できません」という完全拒否物件です。そして、結構な頻度でこういう物件に出会います。
「買主側で費用負担をするのになぜ買主の建物調査まで拒否するの…?」という問い合わせも徐々に増えてきました。その理由を見ていきましょう。
【拒否理由①】インスペクションを理解していない・“粗探し”と勘違い
最も多い印象を受けるのが、インスペクションというもの自体の理解が得られていないことです。
これは売主様もそうですが、驚くことに不動産屋(仲介業者)であっても制度への理解が乏しいケースが少なくありません。
それもそのはず、これまでは中古住宅はなにもしなくても売れてきました。これまで通りの方法でやればいいと考える不動産会社がまだまだ多い印象です。
現状では、自宅を売却された知り合いに聞いてみても「インスペクション?なにそれ?」という返事が返ってくるでしょう。
なかには、売主サイドから「そんなものは買主が買った後にやればいいことだろう」「粗探ししたいのか」という言葉もでてくるくらいです…
インスペクションは不安を払しょくし、安心して住むための方法をみつけるもの
もちろん、インスペクションは粗探しをするためのものではありません。専門的に建物を調査することで、買主側が抱く不安を払しょくするものです。
建物に不具合があった時に修繕可能か、どれくらいの費用で直せるかということを調べるものともいえます。
不具合がでたらNG、ではなく、家を買って安心して住むための方法をみつけるものなのです。
そもそも、買主が費用を負担してインスペクションを実施するという場合には、それだけその家を買いたいという気持ちが強い証拠でもあります。
インスペクションの正しい理解に伴って、十分に普及するころには、この理由は徐々に薄れていくことを期待したいですね。。
【拒否理由②】不具合が見つかり売れなくなる・メリットを感じない
「建築士が家を調査して、不具合でも出てきたらどうするの?売れなくなるじゃないか」というコメントもあります。
確かに、雨漏れが見つかった・シロアリが巣くっていたなどが発見されれば、大きな修繕費用がかかりますし売りづらくなることは十分考えられます。
臭い物に蓋をしたいという売主側の気持ちはわかりますが、結局危険な家を売却することになります。その状態のまま取引を行えば売買後にトラブルとなる可能性が極めて高いでしょう。
見えない瑕疵(住宅の欠陥)に対して、売主が売買契約後に保証する瑕疵担保責任もあります。ただ、個人が売主の場合には、免責や長くて3カ月など、不具合が顕在化するまでには短すぎる期間しかつきません。
これまでそういう危険な取引が行われる状況にあったからこそ、インスペクションを促す法律ができたということの周知・理解が進んで欲しいと考えます。
安心できる家とアピールできる。今後は調査しないデメリットが大きくなる?
「わざわざインスペクションをするメリットを感じない」という意見を聞くケースもあります。
ただ、不具合がない・不具合がみつかっても少額の修繕で修復可能な家であれば、他の物件と比較して「安心して住める中古住宅だ」とアピールできることは大きなアドバンテージとなります。
特にいまだ普及段階にある今、「インスペクション実施済み」というだけで、物件紹介がぐっとしやすくなります。
買主さん側の不動産会社からすれば「この中古物件は、建物状況調査を実施済みで、問題は見つかりませんでした。他の物件に比べて安全性が高いといえます」と営業もしやすくなるのです。
この拒否理由②についても、インスペクションが当たり前に実施される時代となれば、「え、この物件建物調査してないの?だったらパス」と、売れなくなるというデメリットも大きくなることが考えられます。
「メリットは何か?」というより「しないデメリット」が大き過ぎる、という状況となれば拒否物件も少なくなるかもしれません。
【拒否理由③】売主が居住中のため調査しにくい・時間が取れない
中古住宅は多くの場合、個人の方が売主となります。そして、住みながら自宅を売却することもよく行われています。
その場合、建築士をわざわざ呼んで2~3時間も家の中を調査されるということが難しい場合があります。
一つはとても忙しくて、立ち会う時間が取れないケースです。もう一つは、家の中に大きな家具や家電などがあり、十分に調査できる状況ではないケースです。
インスペクションは非破壊検査であり、また大型の家具など移動することが難しい物をわざわざ移動することはしません。
こういうケースでは、売主さんが住み替え先の住宅購入が決まり、引っ越した後まで待つという方法はあります。
ただ、売却資金を元手に住み替え先の購入物件を買うこともよく行われます。そうであれば、売主さんに粘り強く時間を作ってもらうようお願いするしか対策はないかもしれません。
【拒否理由④】仲介業者が対応不可・面倒・まずはそのまま売りたい
元付仲介業者(売主側の不動産屋)が、インスペクションに対応していないケースもあります。
インスペクションを行うのはあくまでも建築士であり、不動産仲介会社のスタッフではありません。建築士と提携できておらず、現時点で対応できない不動産会社もあります。
改正宅建業法ではインスペクションは義務ではありません。あくまでも「仲介業者がインスペクションをあっせんできるかどうか?」を売主さん・買主さんに明示することを求められているに過ぎません。
対応できない不動産業者(売り物件を預かる元付業者)は、売主さんに対してインスペクションの説明を十分しないこともあります。
実際に売主様より「そういう方法があるのですね」という声をいただいたこともあります。
売主さんがきちんと理解していれば「ぜひ建物調査してください」と思っていても、そもそもインスペクションという方法を曖昧にして理解させていないのです。
不動産会社が楽したい。建物を調査せずにそのまま買ってくれる買主を探したい
面倒なことをしたくないというケースも実際にあります。
元付仲介業者はできるだけ手間をかけずに売りたいものです。特に、好立地で買主候補者が多く見込める場合には、コストを掛けずに楽に売りたいと思うものです。
「まずはそのまま売り出してみたい」「インスペクションを実施するより、内覧を優先したい」「時間がもったいない」と考えてしまうのですね。
建築士さんと建物調査する日程調整を行い、当時は2~3時間かけて検査する間仲介業者は立ち会います。そして、1週間程度後に依頼主に報告しなければなりません。
それらの手間暇を面倒と思い、そのままで買ってくれる買主をとりあえず探そうと思ってしまうのです。
この拒否理由④も、インスペクションという方法が売主さんにも広く普及されたころには解決されると考えられます。
【拒否理由⑤】欠陥があることを知っている・隠し通したい・築古物件
一番問題なのが、売主サイドが欠陥住宅であることを知っている場合です。
インスペクションを行うと不具合が判明するため、その欠陥を隠し通したいと考えている場合には買主負担であっても許可しません。
このような理由で頑なに拒否する場合は非常に危険ですのでこういう物件に手を出してはいけません。
ただ、例えば築50年以上経過している木造住宅など、あきらかに築古物件で全面的な補修が必要であることが外観上明らかであればまだ理解できます。
「どうせ問題だらけだし、買主さんが購入された後にやってください」というのも分からなくはありません。その場合には、全面改修を前提とした取引を考えるのも一つの手段ではあるでしょう。
本当の理由は分からない。結局、売主・買主の両方が不幸な結果に…
以上、理由をみてきました。これらの理由が理由として通じるのは、いまだインスペクションが広く周知されていないことが最大の要因でしょう。
そして、本当はどの理由であるかを突き止めることが困難であることも事実です。
仮に最も危険な拒否理由⑤であったとしても、正直に「欠陥があるから調査しない」などということはまずないでしょう。
拒否理由をもっともらしく買主に伝えても、買主としては「実は雨漏れしているからやりたくないんじゃないの?」と勘繰る結果となるためです。
もし物件自体に問題がないとしても、安全に取引したい買主さんは逃げ、売主さんは買主候補者を知らないうちに遠ざける結果となります。
このような事態を生まないよう、まずは建物の不安を払しょくする方法があることが知れ渡ることが目下の課題といえますね。
すべての中古戸建てを調査する必要はない。せめて買主の要望に応じる姿勢を
中古戸建てだからといって、必ずしもすべての物件を建物調査しなければならないわけではありません。
もちろん、それが望ましいことではあります。ただ築浅であったり、住宅性能等級を取得した住宅、修繕などのメンテナンス履歴や設計図書もしっかり残っている住宅であればある程度判断はつきます。
また、インスペクションは決して完璧でもありません。基本的には目視などの非破壊検査であり、だからこそ、万が一に備えて既存住宅売買瑕疵保険もあります。
ただ、「買主による建物状況調査も不可」とするのではなく、買主さんの要望に応じて実施の有無を検討できる余地を残すというのが健全な取引ですね。
最後に、インスペクションは既存住宅売買瑕疵保険や「安心R住宅」とも密接につながっています。さらに瑕疵保険は、築古物件に住宅ローン減税制度を適用する方法の一つでもあります。
税制とも関連しており、また物件によっては瑕疵保険の付保のタイミングを間違えると取り返しのつかないことにもなります。これらに詳しい不動産会社を通じて取引をされることを強くお勧めします。
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