「レントロール」(貸借条件一覧表)に騙されない。収益リスクを見極める

不動産投資において賃料収入をいくら見込むかということは極めて大事なことです。

過去・現在の相場をにらみつつ、今後の周辺環境や賃料想定を考慮して、実際にはいくらくらいの家賃が見込めるかを予想しなくてはなりません。

そのための第一歩としては、今現在、どのような条件で部屋を貸しているのかを確認する必要があります。

一棟アパート・マンションの購入を検討する際には、売主サイドより「レントロール」(賃借条件一覧表)と呼ばれる書類が送られてきます。これは、家賃や契約期間など現在の賃借状況を一覧にまとめたものです。

このレントロールは、今後の賃料を予測する上で極めて重要な情報が盛り込まれています。一方で、読み方を間違えると過大なリスクを取ってしまうことにもなりかねません。騙されないためにも、ここでしっかりポイントをおさえましょう。

レントロールには「現在」の家賃や契約期間などが記載。将来のリスクを見抜く

レントロールは以下のような表です(仲介会社によってその形式(フォーマット)は異なりますので、実際とのケースとは異なります)。

購入を検討している不動産の各部屋の賃料や共益費、預かり敷金、契約期間などが記載されていますが、リスクが潜んでおり確認しなければならない重要なポイントが隠れています。

号室間取り
(専有面積)
家賃
(月額)
共益費
(月額)
預かり敷金現況
(目的)
契約期間
2017/3/5現在
1階店舗
(115㎡)
245,000円15,000円1,200,000円賃貸中
(事業)
2016年1月
~2018年1月
2011K
(25㎡)
55,000円2,000円0円賃貸中
(居住)
2016年9月
~2018年9月
2021K
(25㎡)
54,000円2,000円0円賃貸中
(居住)
2016年9月
~2018年9月
2031K
(25㎡)
57,000円
(想定)
2,000円空室
2042DK
(40㎡)
85,000円5,000円85,000円賃貸中
(居住)
2015年9月
~2017年9月
3011K
(25㎡)
54,000円0円0円賃貸中
(居住)
2017年3月
~2019年3月
3021K
(25㎡)
56,000円2,000円56,000円賃貸中
(居住)
2016年9月
~2018年9月
3031K
(25㎡)
62,000円3,000円62,000円賃貸中
(居住)
2016年5月
~2018年5月
3042DK
(40㎡)
87,000円5,000円 87,000円賃貸中
(居住)
2015年12月
~2017年12月
合計 -755,000円36,000円 1,490,000円- 

レントロールには、あくまで「現在の状況」が記載されているだけであって、ここから将来予測を立てなければなりません。

情報が足りなかったり、合理的でない数値もあり、適宜売主側に確認する必要があります。具体的にどこに気を付ければよいかみていきましょう。

賃料のバラつきがないか。過去の高い賃料のまま入居している可能性あり

賃料について、大切なのはバランスです。「バラつき」がないかをしっかり確認しましょう。

専有面積が大きければそれに見合って賃料も上がることが一般的です。しかし、同じような間取り・大きさであるにも関わらず、家賃が一部屋だけ高いという状況は古くからの入居者であることが考えられます。

つまり、過去賃料が高かった時代に入居してそのまま更新を繰り返して今に至っている可能性があるのです。

例えば、201・202・301・302号室は「54,000円~56,000円」となっていますが、303号室は同じ間取り・大きさであるのに「62,000円」と+10%超も高い金額です。

この場合、303号室の入居者から家賃の減額交渉がくることや、この入居者が退去した後には、現在の相場に合わせて減額した家賃で入居者を募集せざるを得ません。

予想していた収益とはかけ離れるリスクがあるため、売主側にしっかり入居日を確認しましょう。

契約期間で最新の更新日はわかるが「入居日」ではない!賃貸契約は2年ごと更新

入居日を確認しようとして、レントロールの中に記載されている契約期間をみてみます。

303号室は「2016年5月~2018年5月」となっています。これは「現在」の契約が2016年5月から始まっているということであって、入居日が2016年5月ということではありません!

賃貸契約は一般的に2年更新です。例えば2010年5月に入居した後、2012年5月に初めて更新を迎え、その後も2年ごとに契約更新を迎えます。2016年5月は3回目の契約更新という意味です。

売主(オーナー)は昔の契約書を紛失していることもあり、手元にあるのは最新の更新契約書のみという場合もあり得ます。入居日までさかのぼって一つ一つ調べるのが手間な場合があるのです。

売主から物件を預かった不動産会社は、まずは手元にある情報でレントロールを作り、このように契約期間という形で記載することも少なくないのです。

賃料にバラツキがありその理由に疑問がある場合には、現在の契約期間ではなく「入居日がいつなのか」ということを聞いてもらうよう、不動産会社にお願いしましょう。

「共益費」と「預かり敷金」でオーナーと入居者のパワーバランスが推測できる

共益費や預かり敷金をみてみると、取れている部屋と取れていない部屋があります。

201・202・301号室は敷金を取れていない部屋で、いわゆる「敷ゼロ」で募集していることがうかがえます。敷金を取っては入居者がつかない状況であることがわかります。

つまり、オーナーと入居者のパワーバランスとして、入居者が強い(賃貸需要が弱い)可能性があります。

また、301号室については共益費も取れておらず(一般的に階数が高い方が家賃は高い傾向にあるのに)家賃も201号室より安い状況です。

さらに、契約期間も2017年3月から開始しており「もしかしたら売り出すために、入居者に好条件を提示して無理やり(慌てて)入居付けしたのではないか?」という疑念がわきます。

こういう場合には、301号室の入居日はいつか、なぜ家賃が下の階より低いのか、共益費・敷金ゼロであるのはなぜか、といったことを確認するべきでしょう。

「想定」賃料は高値で設定?周辺業者などで情報収集、相場を買主が調査

レントロールに書かれてある家賃は、「現在実際に支払われている家賃」と「(空室の部屋は)予想した家賃」のいずれかです。

当たり前ですが「将来実際に入居者がつく家賃」はどこにも書かれておらず、これは投資家(買主)が予想するしかありません。

そして売主の気持ちになれば、現在空室の想定賃料はできるだけ高く記載したいものです。

売主に「なんで空室の203号室は201・202号室より高値で設定されているのですか」と聞いても「設備がいいから」「角部屋だから」などと理由付けされるでしょう。

もちろん、これを参考にすることはよいのですが、売り側はできるだけ高値で売るために、賃料設定を高くするものです。入居日などの「事実」確認ではなく、「想定」確認は高く売りたい立場から答えていることは忘れないようにしましょう。

やはり買主が投資家として、または信頼できる客付仲介業者が目利きをすることが大事です。インターネットの相場情報もありますし、実際に地場の賃貸業者を回って話を聴くことなど汗をかいて情報収集しましょう。

契約主体「個人」「法人」×使用目的「居住」「事業」で空室リスクを推測

レントロールに記載されていないこともありますが、契約が「個人契約」なのか「法人契約」なのかの違いがあります。

また、入居者の目的には大きく、自分で住むための「居住用」と店舗や事務所など業を営むための「事業用」があります。

契約形態メリットデメリット
個人契約
  • 次の入居者を確保するまでの期間が短い
  • 卒業や転勤などで退去されやすい
法人契約
  • 契約期間が長く、安定した賃料収入を得られやすい
  • 次の入居者を確保するまでの期間が長い
居住用
  • (賃料を下げれば)入居者を確保しやすい
  • 競争が激しく、賃料を周辺相場より大幅に値上げしにくい
事業用
  • 物件の魅力に応じて賃料を高くでき、入居期間が長い
  • 立地の魅力が薄れると入居者の確保が困難

あくまでも一般論ですが、上の表のような特徴(メリット・デメリット)があります。

これを掛け合わせると、大きく4つ「個人」×「居住」、「個人」×「事業」(SOHOなど個人事業主)、「法人」×「居住」(社宅など)、「法人」×「事業」の形態があることが分かります。

個人はライフイベント、法人は経営状況で入退去。居住用は建物、事業用は立地

個人契約は、個人の事情によってのみ入退去が決まるため、入居が決まりやすいともいえ、同時に退去もされやすいといえます。個人のライフスタイルに応じて入退去を繰り返される契約形態です。

一方で、法人契約は会社として社内稟議(検討)や基準があり、入居までの決定プロセスに時間がかかる反面、一度入居すれば(個人契約に比べ)退去もされにくい傾向にあるといえます。ただし、経営が悪化すると退去されるリスクもあります。

また、人が住むための居住用は、生活ができればよいものであり一定のニーズはあり続けます。最悪、家賃を大幅に下げれば入居者を確保しやすい一方、多くの物件が居住用であることから周辺相場からかけ離れた賃料は望みにくいものです。

事業用は、ビジネスが成り立つかどうかが重要であり、価格を下げたからといって入居者を確保できるものでもありません。

一方、契約者の立場からみれば、居住の場合には単なる出費でしかない家賃も、事業用であれば投資コストという考えでみられます。

つまり、好立地であれば賃料を多く支払っても売り上げからまかなえると判断されれば、周辺の居住用物件相場から賃料を引き上げられることもあります。

「個人×居住」は人口・物件割合、「法人×事業」は地域状況や経営スタイル

形態として最も多い「個人契約」×「居住用」は、景気動向よりもそのエリアの人口と競合物件の比率(需給バランス)で入居率が大きく変わる性質があります。

一般的には、競争が激しくなればリフォームなどで付加価値をあげるか、賃料を下げることで入居率をあげる戦略がとられます。

「法人契約」×「事業用」は、収益が上がる「立地」かどうかが重視され、それは法人の経営スタイルに大きく依存するものともいえます。そのエリアの活況具合や人口、年齢層、駅からのアクセス性、周辺環境など立地が極めて重要になります。

また、人口が多くとも、例えばベッドタウンであり平日はあまり人がいなかったり、年齢層がターゲットと異なるなど、法人の個別事情によってくる側面があります。

さらに店舗に顧客が来店する営業スタイルであれば大通りに面しているかなどの道路付けも重要であり、物件そのものよりも立地に関わる要因がカギとなることが少なくありません。

法人契約の割合が高い物件は注意。賃料が大幅減、退去期間も長いリスク

例であげたレントロールは、1階の店舗でその賃料収入の30%を超える割合を占めています。

入居している期間は収益が安定しますが、退去されれば一転、大幅に賃料が減少して一気にローン返済などが苦しくなります。

また、一度退去されれば次の企業が入居するまでに時間がかかる傾向にあります。

退去理由が売り上げ減少などであれば、次の企業(入居候補者)も「周辺環境が変化し立地に問題がでてきたのではないか?」と懸念し慎重になります。特に、1階の路面店などはお客様の来店で成り立っていることが多いものです。

法人の入居意思決定は時間がかかり退去期間が長くなりがちなことを覚えておきましょう。

「法人」×「居住」で家賃補助なら得。一括借り上げ(サブリース)ならリスク高い

法人契約の割合が高くなければ、一般的に法人は支払い遅延(滞納)が少なくお得といえます。

特に、法人契約とした上であくまで社員が居住用として入居する場合は積極的に受け入れましょう。社員へ家賃補助がでることが多くため、実際に入居する社員は賃料にそれ程こだわらない傾向があるためです。

一方、会社として契約する以上、物件のセキュリティや周辺環境について一定の基準が課される場合があります。また保証会社の入居審査において法人の決算書をみられるなど審査ハードルが若干上がるという特徴はあります。

尚、「法人契約」×「居住用」であっても、社員寮として一括借り上げ(サブリース)である場合には要注意です。

法人契約の割合が高く解約されると一気に全室空室となるリスクがあることはもちろんのこと、サブリース独自のリスクがあるためです。

契約期間が偏っていれば、一斉退去のリスク。次に入居者が付きづらい?

レントロールをみると契約期間が、201・202・302号室はすべて「2016年9月」となって偏っていることがわかります。

このような物件は、最悪の場合、次回更新の2018年9月に一斉に退去されるリスクがあります。

また、一斉に退去されれば賃貸アパート・マンション自体になんら問題がなくても、「この物件は、9部屋中3部屋も空いている。何か問題があるんじゃないか」と外部からみられる可能性もあります。

足元をみられ、入居申し込み時にも家賃減額交渉が入りやすいリスクもあります。いずれにせよ、契約期間の偏りは二次リスクも含まれるといえます。

投資不動産が売りに出される前の短期間に入居が決まっている物件は要注意!

投資物件が売りに出される直前に、一気に入居者が入っている場合は必ずその理由を確認しましょう。

もちろん、リノベーションなどで物件のバリューアップを図り、その結果として入居者を一気に確保することはあります。

しかし、売主が売却マンションを売りやすくするため、広告費やフリーレントなどを過大につけ無理やり入居させた可能性も考えられるためです。

特に、投資家は利回り計算で価格の妥当性を検証するため、賃料は下げない代わりに入居者や賃貸の客付け仲介業者に特別な報酬を与えている場合があります。

そういうケースでは、次に入居者をみつけるには賃料を大幅に減額せざるを得ない可能性が少なくなく、要注意です。

年齢や属性のバランス。大学生が固まっていたら卒業と同時に一気に退去?

レントロールに載っていないことも少なくありませんが、入居者の年齢や属性(勤務先・勤続年数・年収など)もできる範囲で確認したいものです。

特に、22歳や24歳という年齢層が固まっている場合には、大学生・大学院生が卒業間近であることがうかがえ、退去者が一時的に急増するリスクがあります。

また、学生や特定の企業の社員が入居者の大半を占める物件は、大学や会社に依存しているといえます。それらが撤退すれば一気に空室が増えるため注意が必要です。

また、30歳代であるなどマイホーム購入の時期に差し掛かっている場合には退去リスクがあります。一方で高齢層が入居している場合には、長期間生活する可能性が高いと予想されます。

勤務先や年収なども、滞納リスクを推し量る目安になります。いずれにせよ、収益の視点でみればバランスよい賃借人が入居していることはリスク分散になります。

その他の副収入や共用部などの出費も確認、事業シミュレーションに反映

レントロールは売主側の不動産会社が作成するもので必ずしも漏れなくすべての情報が載っているわけではありません。

確認しておきたいのが「その他の収入や出費がないか」ということです。

収入については、例えば自動販売機が考えられます。これは収入減となる代わりに、電気代が発生するため赤字となっていないか、契約内容はどうかなどを確認しましょう。

また、共用部分の支出の主なものには、光熱費や水道代、清掃費用があります。

その他、エレベーターが設置されている場合には点検などのメンテナンス費用、一定の規模以上となれば消防設備の管理コストもかかります。ケーブルテレビやインターネットの費用負担があればそれも併せてチェックします。

特に、雪国であれば除雪コストも忘れずに確認し、事業収支が合うかシミュレーションに反映させましょう。

レントロール(賃借条件一覧表)のまとめ

物件購入を具体的に検討する時、収支に直結するレントロールを検証することはとても大事なプロセスです。

賃借条件が一覧になって記載されたシンプルな表ですがそこから読み取るべきリスクは多く存在します。

基本的に、賃料や入居者属性などのバランスが取れているか、実態に見合ったものかをチェックすることが第一歩です。

売主はできるだけ高値で売却しようというインセンティブが働きます。買主側は想像力を働かせ、違和感や疑問点があれば、あなたの仲介業者を通じて売主側に一つ一つ確認してもらいましょう。

次は、税金の中でも特に重要な減価償却費を中心にみていきましょう。

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