両手取引の報酬は、売主・買主双方から手数料がもらえる”おいしい”商売

不動産取引では、買主と売主の間に入る仲介業者の数によって片手取引と両手取引の2つがあります。片手取引は、業界用語で「分かれ」ということもあります。

片手取引は、不動産を売りたい売主と、買いたい買主にそれぞれ仲介業者が付きます。売買が成立すれば、それぞれの不動産会社が仲介手数料を報酬として受け取ります。

 

 

両手取引は、売主と買主の間に1つの不動産会社のみが入ります。不動産の所有者から売却を依頼された不動産会社が、自ら買主を探してきた場合です。

両手仲介取引の場合、不動産会社は売主からも買主からも両方から仲介手数料を報酬としてもらえるため、単純にいえば利益が倍となる「おいしい」取引です。

【参考】両手取引は利益相反の関係だが違法ではない。「媒介」と「代理」の違い

両手取引は売主と買主の両方の間に入り、利益相反の関係にあるといわれます。

つまり、少しでも高く売りたい売主と、安く買いたい買主の両方が同じ会社に媒介を依頼するため、どちらかの利益となるように動けばもう片方の利益を損ねるということです。

law_sこれは民法が禁じる双方代理に根差した考え方であり、仲介業者を売主または買主の代理人と捉えるものです。

一方で、仲介業者はあくまでも「媒介」であって「代理」ではないとされています。

つまり、片手取引でも両手取引でも、両者の間に入り中立な立場で調整しながら契約に結び付ける立場であり、双方代理にはあたらないという考え方です。それゆえ、両手取引は違法ではないのです。

両手取引そのものが悪いわけではない。片手も含めて大切なのは取引姿勢

売主と買主にそれぞれ仲介業者が入り、お互いを牽制しながら取引を実現することが健全といえ、両手取引を避けたくなります。

しかし、両手仲介そのものが悪いわけではありません。

例えば、売主側の元付仲介業者として他の不動産会社(客付仲介業者)へ買主を探すように依頼したものの、どの不動産屋も買主を見つけられなかっとします。

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一方で、売主から物件を預かった元付仲介業者が直接買主を見つけた場合は、1社しか間に入りませんが取引を進めざるを得ません。

この場合には、あえて他の不動産会社に買主側の不動産業者をつけるという方法も考えられなくはないですが、業務が煩雑化し取引が遅くなるデメリットがあります。

不動産会社が健全な姿勢で取引を行うことが前提ですが、両手取引とならざるを得ない場合もあるのです。

片手取引よりも多くなる業務量に合わせて報酬も増加。片手であっても安心できない

報酬が2倍という点はどうでしょうか。

これも、売主側の元付仲介会社が行う業務と、買主側の客付け仲介会社が行う業務の両方を実施しているため合理的ともいえるのです。

前者は売主の開拓、重要事項説明書や売買契約書の作成、登記移転の手配などであり、後者は買主の開拓、収支計画やローンサポートといったファイナンス、保険の手配などがあります。

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それぞれ発生する業務を一手に引き受けることになり、片手取引の時の報酬と同額というのは合理性に欠くともいえるのです。

さらに、仲介会社が売主・買主のそれぞれにつく片手取引であるからといって、健全な取引がなされる保証もありません。

元々、「契約して初めて仲介手数料をもらえる」という成功報酬型の不動産取引構造上、売主側に優位な取引がされやすいのです。例えば、仲介会社同士が裏で協調した場合には実質、利益相反という批判と同じ効果を生むという指摘もあります。

取引形態によらず、大前提として不動産会社の信義誠実な姿勢が求められる

まとめると、両手取引だから悪い、片手取引だから良いという議論ではないということです。

元々の宅建業者(不動産会社)のあるべき姿、以下に示す通り信義誠実の原則に従った不動産会社の姿勢が求められているというところに落ち着きます。

宅地建物取引業法 第31条 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。

特に、仲介業者が買主と売主の間に1社のみ入る場合は、中立公平な立場で特に自社を律する必要があります。

両手取引がやむを得ない場合もある一方で、どちらかに偏った利益に与することとならないよう、不動産会社は公正な仲介をしなければならないのです。

両手取引は、仲介業者が抱える買主での取引を強引に進める危険がある

両手取引のメリットは、1社で売主・買主と接するため、取引が効率的になされスピードが上がるという点です。

デメリットは、仲介手数料が通常の2倍もらえるため、安易に契約に結び付けようとしてしまう恐れがあります。

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例えば、自社で抱える顧客への取引にこだわり過ぎる可能性があります。

自社の顧客(買主)のみで取引がなされ、本来もっと高値で買うという買主がいたとしても、無理やり契約をまとめようとするのです。

つまり、本当は広く買主を募集すれば(片手取引を行えば)高値で売れたかもしれない可能性を情報をつぶしてしまうのです。売主への背任行為でもあり、これが悪しき習慣「囲い込み」です。

【注意】両手取引を利用した「仲介手数料無料」の不動産売買にも取引リスクがある

不動産売買で、「手数料無料!」としている会社もあります。これは両手仲介の内、買主の手数料をゼロとすることで実現しています。

このような不動産屋に行くと、紹介される物件情報が偏ります。

 

 

なぜなら、両手取引が可能となる売主物件や、自社で預かった物件など「両手仲介ができる物件」に限定されるためです。そして、売主と直接つながっているため、売主寄りの仲介をされてしまう可能性もあります。

リスクやネガティブ情報の開示がなかったり、インスペクション瑕疵保険の付保など不動産会社が「面倒だなあ…」と嫌がるような手続きを敬遠されるかもしれません。

手数料無料サービスには取引リスクがあることを理解しておきましょう。

仲介手数料が無料になる仕組み。物件が限定され、取引リスクも大きい

不動産屋の利益を最優先する「囲い込み」。購入申し込みを断る背任行為

両手取引にも良い点悪い点があり、悪い点についてもか必ずしも片手取引だからといって防げるものではないことをご説明しました。

絶対に行ってはいけないのは、両手取引を悪用する「囲い込み」です。

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これは、両手取引にこだわるあまり、REINSに登録しなかったり、他の業者が「買い手がいます」と問い合わせがあっても「現在、申し込みが入っております」と嘘をつくことで契約に進ませないのです。

買主の取引を制限するものであることに加え、売主の販売機会損失となります。

悪質な囲い込みの場合には、以下に示す通り、当初考えていた売買価格よりも値下げされた状態で契約が結ばれることにもなりかねません。

囲い込みの典型的な方法。あなたの物件が他の営業に使われている?!

悪質な囲い込みの具体的なメカニズムをご説明します。

(専属)専任媒介契約を取って客付け業者からの問い合わせを集約させる

まずは、売主との間で専任媒介契約を取ることが第一歩です。

売主に対して「うちで販売させてもらえれば、相場より高い5,000万円で売却できますよ。なんたって販売力が違いますから。その代わり、(専属)専任媒介契約としてくださいね」と、執拗に専任媒介にこだわります。

それはそうです。もし一般媒介の場合には、囲い込みができなくなるためです。もともと囲い込むためには、すべての買い付け希望を自社にくるような立場を作り、情報をコントロールする必要があります。

一般媒介であれば、複数の不動産会社が売主とつながることとなり、買い手側の客仲介業者は他の元付仲介業者を通じて確認すれば売主にたどり着けるのです。

売主側の不動産会社同士は、他社にとられるくらいなら片手取引をしようという競争原理が働くため、そもそも囲い込むインセンティブがなくなります。

だからこそ囲い込みをする業者は、「高く売れる」などと売主に持ち掛けることでなんとしてでも専任媒介契約を取ることにこだわるのです。

高値で販売に出してしばらく放置する。「当て物件」として内見件数を稼ぐ

売主から預かった不動産をしばらく高値で不動産市場に出しておきます。

不動産会社は、売主と専任媒介契約を結んでいますからREINSに登録しなければなりません。悪質な不動産会社であれば、登録をしなかったり、登録をしてもすぐに登録を削除したりします。

断る・拒絶・NO_300そして、もし他の不動産会社が買い手をみつけてきても、購入申し込み(買付申し込み)が入るときには、「現在商談が入っております」とブロックするのです。

相場より高値で不動産を出していると反響がないのではないかと思われるかもしれませんが、「当て物件」として、内見の依頼が入るものなのです。

bad-person_ssつまり、他の不動産会社が物件Aをお勧めする際に、同じようなグレードでしかも高い値段で出ている物件を、当て物件として内覧(内見)させ、物件Aへの契約を促す際に利用されるのです。

(専属)専任媒介の時には、定期的に売主に販売状況を報告しなければなりませんが、その際にも「これだけ内覧依頼が入ってますよ、やはりうちの販売力は大きいですね」などとアピール材料にまでしてしまう業者もいるくらいです。

売主が焦りだすタイミングで、売却価格の大幅な値下げを承諾させて取引成立

2カ月程度放置し、そろそろ売主が焦ってくる時期に「やはり今は不動産市場が冷え込んでいてこのままでは難しいです。値下げして今のうちに売り抜けませんか」などと値下げを煽るのです。

不動産会社としては、販売価格が下がればその分仲介手数料も下がりますが、なんといっても両手取引は片手取引の2倍の報酬が得られます。その影響は微々たるものなのです。

bills_business-people_2_ss例えば5,000万円を片手取引した場合、その仲介手数料の上限は156万円(=5,000万円×3%+6万円)ですが、仮に▲500万円値下げして4,500万円としても両手取引であれば、282万円(=(4,500万円×3%+6万円)×2)です。

こうして、売主の販売機会を意図的になくし、かつ、当初の販売価格よりも値下げして売却させます。

この囲い込みは、「大手不動産が不正行為か 流出する“爆弾データ”の衝撃(2015年4月13日、週刊ダイヤモンド編集部)」として大々的に報じられており、今後もしっかりと目を光らせる必要があります。

両手取引で失敗しないための対策

【対策1】両手取引か事前に確認する。不審な場合は別の業者を通して契約

両手取引そのものが悪いわけではありません。ただ、売主と買主の間に入るのが1社のみとなり、業者利益を優先した取引が起こりやすい傾向があります。

その対策としては、売主・買主に、遅くとも契約前までに両手取引かどうかを確認することです。少し強引さを感じれば「ところでこれは片手取引ですか?」と聴いてみましょう。

疑う・考える_300両手取引を行っている仲介業者は、自社の言葉を”そういう立場にある”会社からの言葉として受け取ると理解するでしょう。

つまり、売主・買主がよりシビアに耳を傾けるようになることが分かり、襟を正して説明をするはずです。

そもそも不信感がある場合には、他の仲介業者を通して契約することもできます。その場合には片手取引になりますし、それでいて売主・買主が不利になることはありません。

【参考】米国は事前告知が義務付け。両手取引でも成約価格に差がでないとの研究も

多くの州で両手仲介が規制されている米国では、両手仲介を行う場合には事前に売主・買主に「両手取引である」ことを告知する義務があります。

さらに米国ニューヨーク州の取引からの実証研究では、売主・買主と仲介業者の情報格差をなくせば、たとえ両手仲介であっても成約価格の差はみられなくなるとの研究結果が得られています。

New York_300具体的には、Vrinda Kadiyali氏やJeffrey Prince氏らの「Is Dual Agency in Real Estate a Cause for Concern?」(不動産の両手取引は懸念材料か?)では、以下のように結論付けています。

We find that dual agency has an overall null effect on sale price, but includes two opposing forces where buyer and seller interests might be compromised.
両手取引が成約価格に及ぼす影響はなく、これは2つの相反する力が相殺された結果である。

Is Dual Agency in Real Estate a Cause for Concern?のAbstractより

2つの相反する力については、あくまでも研究者の解釈であり、事実として大切なのは情報が十分にいきわたった状況では成約価格に対する影響がないということです。

尚、念のためKadiyali氏などが提唱する2つの力を説明すると、①両手仲介に入る不動産会社が、売主から預かった不動産を最も好むベストな買主を見つけることで成約価格が高くなる力と、②買主に成約を促す中で買主側の要望を聞き入れ、売主を説得するため成約価格が下がる力です。

これらが打ち消しあって、結果として両手取引は片手取引と比べて変わらないと解釈しています。

【対策2】専任媒介ではなく一般媒介に。または売却依頼する不動産会社を変える

一般媒介の場合、両手取引は事実上、不可能です。

ただし、専任媒介契約とした場合に気合いを入れて販売活動をしてくれることが期待される場合もあります。

この場合、あえて一般媒介としてしまったことで販売機会を喪失してしまうリスクもあります。

媒介契約の種類は物件の質や、不動産会社の姿勢などを見極めた上で考えたいものです。怪しいと思う場合は、専任媒介契約を切って、不動産会社自体を変えてみることも一手段です。

【対策3】REINSの登録や取引情報を定期的にチェック。REINSの特別機能も

(専属)専任媒介契約を結んだ不動産会社はREINSにその物件を登録する義務があります。本当に登録しているか疑問に思う場合、定期的にチェックしましょう。

REINSは宅建業者(不動産会社)しかみることはできませんが、(専属)専任媒介契約を結んでいる場合には、売主が取引情報をリアルタイムに確認できる機能があります。

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「公開中」「購入申し込みあり」「媒介停止中」の3種類の状態がわかる専用のURL(サイト)やID・パスワードが売主に発行されます。詳しくは、売却を依頼した不動産会社に聞いてみましょう。

たとえREINSに登録した際に発行される「登録証明書」を渡して売主を安心させておいて、すぐさま登録を解除(削除)する悪質な不動産屋もいます。

一般媒介の場合にも、できるだけ不動産会社に説明を求め、REINSの登録状況は「定期的」にチェックしましょう。

両手取引のまとめ

両手取引は、それ自体が直ちに悪いというわけではありません。やむなく両手取引とせざるを得ない場合(買い手が他の不動産会社から現れない)もあるからです。

一方で、両手取引にはその報酬が2倍となることが歪んだ取引、つまりは「囲い込み」という悪しき慣習も生み出しています。

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悪質な囲い込みをしている不動産会社は一部であると信じたいですし、本来パートナーであるべき仲介業者を頭から疑ってかかることが健全とも思えません。しかし、不動産取引は大きなおカネが動くものです。

対策としてはなかなか決め手に欠けますが、おかしいなと思えば素直に聞いてみること(確認すること)です。特に、利害関係のない不動産会社など信頼できる相談先があれば一度聞いてみることをおすすめします。

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