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販売価格は「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の3手法で設定
販売時にはどのように値決めするのでしょうか。
もちろん自由に値決めしてよいのですが、よく使われるのは「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の3つの手法です。
どれか1つで決めることもあるかもしれませんが、通常、複数の手法を用いて試算し、多角的に検証します。
それぞれ、詳細なガイドラインについては、国土交通省が「不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行う場合の基準」を定めた「不動産鑑定評価基準」や、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」が参考になります
ただし、これは不動産鑑定士のための評価ガイドラインです。
民間企業や個人が販売価格を決定するためにこのガイドラインが作られたものではなく、参考となるものに過ぎない点はご注意ください。
マイホームの価格設定に使われる
原価法については、積算価格における建物評価で考え方をご説明しましたので割愛します。ここでは取引事例比較法を取り上げます。
取引事例比較法とは、近隣で実際に行われた取引事例を複数ピックアップし、比較検討することで価格を算出する方法です。
主に実需向け(自分で住むために買う場合)、つまりマイホーム販売の際に使われる手法です。この方法で算出された価格を「比準価格」といいます。
この方法は、「周辺はこれくらいの相場だから、うちの物件はこれくらいにしようかな」というもので、考え方はとてもシンプルでとっつきやすいものです。
一方で、検討を詳細にしようと思えばいくらでもできます。
自分の物件がどういう特徴を持っているか、比較対象はなにが適切か、などしっかりと目的意識を持つことが大切ともいえます。
取引事例は不動産会社に相談するのが一番手っ取り早い
個人の方が購入しようとしている不動産周辺の過去の取引事例を調べようと思っても、どこで探せばよいのでしょうか。
まずは個人に対しても広く取引情報を公開している「土地総合情報システム(国土交通省)」が参考になるでしょう。
一方、不動産業者であればREINSという業者専門の膨大なデータベースを閲覧できます。
成約情報や、現在売りに出ている物件一覧がすぐにわかるため、不動産業者と一緒に相場観や過去事例を学ぶことが一番効率が良いといえます。
相場や周辺取引事例を知ることは、危険な取引を避けることにもつながります。
あまりにも多くのデータを要求することは歓迎されないかもしれませんが、ご自身でしっかり判断するためにも、まずは懇意にしている不動産会社に相談してみましょう。
【具体例】取引事例比較法で販売価格を決めてみましょう
ピックアップする取引事例の基本は近隣・最近の事例
イメージを掴んでいただくために、とても簡略化した事例をみてみましょう(物件名などはすべて架空のものです)。
販売価格を決定したい(または販売価格が適正な水準か確認したい)住宅の周辺で、過去1年間に10件の取引があったとします。ここで、販売住宅は中古マンションであるため、中古マンションのみ抜き出しています。
取引事例は、地域的にも時間的にも無数に存在します。どの範囲から抜き出すか、いつ時点から選ぶかが問題になりますが、基本は「近隣」「最近」の取引事例です。
ただ、特殊な不動産を評価したい場合において、近隣にはそのような事例がなかったり、最近はあまりみない物件の場合には、柔軟に範囲を変更します。
例えば、2階建ての戸建て住宅街にポツンと大型マンションを建設し、そのマンションをいくらで売るかということを考えましょう。
その時には、近隣だからといって過去の戸建て住宅取引だけを比較しても適切な値付けができないでしょう。
目的に合わせて比較する項目を選ぶ
「最寄駅」「構造」「築年数」などの項目が並んでいますが、この項目は個別の案件によって増減させるものです。
例えば、修繕履歴や道路付け、用途地域や制限など他の要素を追加して比べても構いません。
上図は基本的な項目しか列挙していませんが、どの項目で比較するか、何を重視するかによっても販売価格は異なってきます。
項目選びから取引事例比較法は始まっているのです。
比較対象としてふさわしくない特殊な取引を除く
価格や専有面積、構造、間取り、築年月などは数値や内容がバラバラです。
特に、No.4の板橋アパート102号室は、突出して価格が安く、専有面積も小さいですね。駅からの距離も18分とここだけ遠く、構造も唯一木造です。築年月も1968年と古く旧耐震の住宅です。
また、同じように、No.9は取引の中で極端に成約価格が高く、専有面積も広く、駅から1分と利便性も極めて高い取引であったとわかります。
さらに、築年月が2016年2月であるのに対し、成約年月日が同じ年の7月である中古マンションということは、新築で誰かが買った直後に売却したということで、なにか特殊な事情があったものと推察されます。
このような特異な取引と思われるものは、比較対象から外します。評価したい住宅と大きく条件が異なる取引まで比較してしまうと、適正な価格が算出できないためです。
㎡単価を求め、面積を掛ける
これら2つの取引を除いた8取引から、平均の㎡単価を算出すると「51.2万円/㎡」となりました。
そこで、評価したい物件の専有面積が70㎡であったとすると、比準価格は「3,584万円」(=51.2万円/㎡×70㎡)となります。
取引事例比較法は検討項目をいくらでも多くできる
以上の具体例は、本当に簡易的な方法をご紹介したに過ぎませんが、実際にはもっと詳細な検討が必要となる場合が多いものです。
本格的に実施する場合の雰囲気を少し感じてみましょう。取引事例比較法について、「不動産鑑定評価基準(国土交通省)」には以下のように記されています。
取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。
(1)次の不動産に係るものであること
① 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という。)に存する不動産
② 対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争等の関係が成立していると認められる不動産(以下「同一需給圏内の代替競争不動産」という。)。
(2)取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。
(3)時点修正をすることが可能なものであること。
(4)地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。
難しい言葉が並びますが、身構える必要はありません。これらは先ほどの簡単な具体例でもすでに言及したものです。
比較対象は原則近隣。でも特殊な場合は他の地域が適切
(1)については、ピックアップする不動産は近隣地域を原則とした上で、周辺の地域も選ぶことを考えなさいといっているのです。
具体的には、価格を形成する要因や競争関係が他の地域の方が適切だと考えられる場合です。
例えば、池袋の商業ビルに対して取引事例比較法を用いる場合、隣駅の目白駅や北池袋駅の住宅と比較するよりも、新宿駅や渋谷駅のビルと比較する方が適切だと感じると思います。
なにぶん、この“適切さ”は主観的な要素が入るため、不動産鑑定士の間でも意見の割れるところではあります。
ただ、それだけ慎重に考えなければならない検討要素は多いということです。
特殊な取引は排除、補正できるものは補正して利用
(2)については、特殊要因は除きましょうといっています。
具体的には、売主の事情で売り急ぐことで特別に安く売られている取引事例や、買主が買い急ぐことで普通ではありえないほど高値で購入しているようなものです。
一方で、仮に通常よりかなり安値(高値)で売られた取引があったとしても、合理的に補正できるものなら補正したうえで使うことも述べています。
安易に除外することなく取引の実態を見抜きましょうといっているのですね。
取引された時点を意識して補正
(3)については、今の時点と過去の時点で補正しましょうということです。
不動産価格は常に変動しているため、いつ取引が行われたのか、その取引が行われた時の経済状況はどうだったかなどを検証すべきということですね。
取引の裏に隠れる要因も比較検討
(4)については、「地域要因」と「個別的要因」も比較しましょうといっています。
それぞれの要因は具体的に述べると何冊も本がかける程膨大な量になります。以下に住宅地域と商業地域の場合のみ、一例を示します。
【地域要因】
1.住宅地域
住宅地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)日照、温度、湿度、風向等の気象の状態
(2)街路の幅員、構造等の状態
(3)都心との距離及び交通施設の状態
(4)商業施設の配置の状態
(5)上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態
(6)情報通信基盤の整備の状態
(7)公共施設、公益的施設等の配置の状態
(8)汚水処理場等の嫌悪施設等の有無
(9)洪水、地すべり等の災害の発生の危険性
(10)騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度
(11)各画地の面積、配置及び利用の状態
(12)住宅、生垣、街路修景等の街並みの状態
(13)眺望、景観等の自然的環境の良否
(14)土地利用に関する計画及び規制の状態2.商業地域
前記1.に掲げる地域要因のほか、商業地域特有の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)商業施設又は業務施設の種類、規模、集積度等の状態
(2)商業背後地及び顧客の質と量
(3)顧客及び従業員の交通手段の状態
(4)商品の搬入及び搬出の利便性
(5)街路の回遊性、アーケード等の状態
(6)営業の種別及び競争の状態
(7)当該地域の経営者の創意と資力
(8)繁華性の程度及び盛衰の動向
(9)駐車施設の整備の状態
(10)行政上の助成及び規制の程度
【個別的要因】
Ⅰ 土地に関する個別的要因
1.宅地
(1)住宅地
住宅地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
① 地勢、地質、地盤等
② 日照、通風及び乾湿
③ 間口、奥行、地積、形状等
④ 高低、角地その他の接面街路との関係
⑤ 接面街路の幅員、構造等の状態
⑥ 接面街路の系統及び連続性
⑦ 交通施設との距離
⑧ 商業施設との接近の程度
⑨ 公共施設、公益的施設等との接近の程度
⑩ 汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度
⑪ 隣接不動産等周囲の状態
⑫ 上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易
⑬ 情報通信基盤の利用の難易
⑭ 埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
⑮ 土壌汚染の有無及びその状態
⑯ 公法上及び私法上の規制、制約等(2)商業地
商業地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
① 地勢、地質、地盤等
② 間口、奥行、地積、形状等
③ 高低、角地その他の接面街路との関係
④ 接面街路の幅員、構造等の状態
⑤ 接面街路の系統及び連続性
⑥ 商業地域の中心への接近性
⑦ 主要交通機関との接近性
⑧ 顧客の流動の状態との適合性
⑨ 隣接不動産等周囲の状態
⑩ 上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易
⑪ 情報通信基盤の利用の難易
⑫ 埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
⑬ 土壌汚染の有無及びその状態
⑭ 公法上及び私法上の規制、制約等Ⅱ 建物に関する個別的要因
建物の各用途に共通する個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
1.建築(新築、増改築等又は移転)の年次
2.面積、高さ、構造、材質等
3.設計、設備等の機能性
4.施工の質と量
5.耐震性、耐火性等建物の性能
6.維持管理の状態
7.有害な物質の使用の有無及びその状態
8.建物とその環境との適合の状態
9.公法上及び私法上の規制、制約等
頭がくらくらしますね。これを馬鹿正直にすべて検証するのではなく、実務上は評価する不動産の属性によって、優先順位をつけ検証します。
取引事例比較法のまとめ
ここでは、販売価格の手法の一つである「取引事例比較法」についてみてきました。
この方法は、周辺の過去の取引事例を基に価格を決めるもので、その考え方がわかりやすく、よく利用されます。
一方で、評価しようとしている不動産の特徴をしっかりと理解していないと、不適切な比較を行う危険性もはらんでいます。
販売されている不動産が周辺相場と近い金額だからといって、それが適切かどうかはまったく別の話です。本来比較すべきは遠方の地域かもしれません。
実際に購入しようとしている不動産価格が適切かどうかを確認する際には、あなたが頼りにしている不動産仲介業者としっかり条件や特徴を精査し、おかしなところがあれば売主側と交渉し、適切な金額での売買に持ち込みましょう。
さて、販売価格を設定する方法にはもう一つ「収益還元法」があります。次はそれをみていきましょう。
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