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成約価格がわからない?過去の取引履歴情報が整備されていない日本市場
不動産の“実際の”売買価格である成約価格を調べようとしても、現状では容易にアクセスできる正確かつ網羅的なデータベースがないのが実態です。
国土交通省の「土地総合情報システム」や、財務省の「国有財産売却情報」などで一定の情報はみることができますが、網羅的に全国津々浦々が整理された情報はありません。
また、それぞれの情報サイトの方針に応じて、所在地を特定されないよう加工したり、価格に幅を持たせたりします。
宅建業者でさえ、網羅的かつ正確に過去の成約価格情報や関連情報にアクセスできません。
レインズ(指定流通機構)には成約価格情報もありますが、価格の登録義務に対する罰則規定が不十分で有効に機能していません。また、住宅性能も任意登録項目です。
不動産売買を行うとする際、過去に実際にはどれくらいの金額で売買されたのか、それはなぜかという取引履歴は重要な意味を持ちます。しかし、その貴重な情報は整備されず散在している現状なのです。
不動産鑑定士などによる査定価格はあるが、個別に決まる「成約価格」とは異なる
公示地価などの鑑定価格や、売主が希望する売出価格と、「本当はいくらで売れたのか」という成約価格には大きな開きがあることも少なくありません。
公的な査定価格でいえば、土地の価格は公示地価や基準地価、相続税路線価額など不動産鑑定士による査定や、建物価格であれば固定資産税評価額などの価格はあります。
しかし、例えば公示地価は「その土地を最大限有効活用したらいくらの値がつくか?」という考え方で査定されており、建ぺい率や容積率が大きく余っている状態で使用されている場合などには売買金額(取引価格)は下がるでしょう。
さらに、売主の売り急ぎ・売り惜しみ、買主の買い急ぎなどの特殊要因や個別の状況によっても、不動産の実際の成約価格は異なります。
査定価格(評価価格)はあくまでも間接的な価格であって、実際の成約価格がいくらなのかはそれだけでは分からないのです。
成約価格が分かれば取引が効率的に。不動産屋のサービスの質も向上する?
不動産取引の成約価格が網羅的にわかるデータベースが作られれば、情報不足である個人(売主または買主)が、実際の取引において「価格の妥当性」を測る参考情報として使うことができます。
現状では、価格に関する情報は不動産業者に優位性があるといえ、個人は情報弱者の立場です。事実上、提示された価格を基準にして価格を吟味する状況といえます。
現在、インターネットなどで無料提供されている「相場情報」といわれるものも、ほとんどは売出価格の平均値を取り一定の加工を施したものです。売り出し価格とは、単に「売主の希望価格」に過ぎません。
そこから買主側との交渉が始まり最終的な取引価格が決まるのであって、売主の希望価格を基にした相場は必ずしもあてになりません。特に個人間売買ではその傾向が強いでしょう。
不動産業者は売りたい(制約させて仲介手数料を受け取りたい)という思いが強く、特に買主自身が参考にできる成約価格(取引価格)のデータベースがあれば、危険な取引を防ぐ力強いツールとなりえます。
さらに取引価格が容易にわかる状況となれば、不動産市場の透明性が向上し、海外投資家からの投資も増え不動産市場の活性化も期待されます。
売主・買主に対して説明責任が大きくなり、不動産業者が有意義な業務へ注力?
取引そのものの質も向上するでしょう。
買主から「過去の取引価格が3,250万円なのに、なぜ今回は3,800万円で売りに出されているのか?」と問われるなど、しっかりと説明責任を果たさなくてはなりません。不動産屋の能力向上にもつながるでしょう。
売り出し価格の平均を取って、漠然と「相場がそうなっているから価格はこれが適正です」というのでは満足せず、具体的に過去から現在までの不動産市場の流れを抑え、適正価格かどうかのジャッジを行うことになります。
また、特別安値で取引されていることが分かれば、売主が売り急ぎたいためにそうなったのか、または住宅に欠陥があったのかなど調べる必要がでてきます。このような注意喚起にもなるでしょう。
売主と買主の間の交渉も合理的な話し合いを行うキッカケになる可能性もあります。不動産屋のサービス向上含め、起爆剤になる可能性は十分にあるでしょう。
価格情報は使い方が大事。流用ではなく、背景にある取引事情を理解した上で利活用
成約価格は、いつ・どこで・誰が・何の目的で・どんな特殊事情の下・どのような不動産を売買したのかなど、価格を形成する要因は多岐にわたります。
安易に過去の成約価格をそのまま引用・流用して売買価格に反映することは避けなければなりません。
その文脈でいえば、公示地価など公的な価格も、単なる評価額であって売買金額のあくまで参考としなければなりません。
しかし、実際には「正しい価格」というのは唯一無二に定まるわけではなく、公的な価格や近隣の売出価格、ある特定の計算式などを用いて、そこに経験や勘などで値付けしているのです。
いずれにせよ、情報はその背景にあるものをしっかりと理解して利活用しなければなりませんね。
国は公開の方針だが「価格情報は隠しておきたい…」という国民感情に配慮
国は透明度の高い不動産市場を作るべく、実際の売買価格を公開したいと考えています。
2003年6月の国土審議会土地政策分科会企画部会では、「土地基本法における公共の福祉優先の基本理念に鑑みれば、個人情報保護による個人の利益に対して情報開示による公共の福祉を優先させることに十分な合理性がある」と結論付けています。
つまり、個人情報を保護する利益(私益)よりも、取引価格を公開する利益(公益)が勝るというのです。
取引がなされたこと自体は、登記簿謄本で所有者が変更していることが確認されることや、現地の不動産を見に行けば分かることなどから、価格を公開しても不利益はないのではないか、といった論調で議論がなされたものです。
しかし、同時に「制度の導入にあたっては、実際の国民感情に配慮することとし、今後の在り方について国民の意見を聞きつつ、土地の所在を表す情報を一部秘匿する等の措置を必要に応じて検討すべきである」とも付け加えています。
いきなり取引価格を公開するとなると、国民も不安になると配慮しています。実際に開示する場合、どのような形で行えば国民の納得が得られるか模索しているのですね。
国交省のアンケートでは、制度自体に賛成、自分の情報開示は不安な姿勢が浮き彫り
国交省の実施したアンケート「不動産の取引価格情報の提供に関する国民の意識調査」などをみれば、不動産の取引価格を公開する制度自体には、賛成する向きが多いようです。
しかし、いざ自分の情報が公開されることに対しては、物件所在地も個人名もあわせて公開してよいという意見は10%未満に縮小します。
「物件の所在は構わないが、個人名は公表しないで情報を提供してほしい」まで含めると割合は拡大しますが、それでも過半数割れの40%弱に留まります。
国民感情に配慮するという立場では、匿名加工情報として情報が特定されない加工を行い、個別具体的ではなく(総合的な傾向として)統計情報としての取り扱いが現実的かもしれません。
ただ、実際に日本で売買金額が開示された制度もなく、漠然と恐怖を感じていることも考えられます。
引き続き、国や民間企業がその公益性の大きさを理解してもらえるよう、丁寧な説明を行う必要があるといえるでしょう。
【参考】閉鎖的な日本市場は透明度が19位。世界に出遅れている情報公開
2016年7月20日、ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)が2年おきに実施している「グローバル不動産透明度インデックス(2016年版)」によると、日本の不動産市場の透明度は19位に留まります。
欧米やオーストラリア・ニュージーランドが上位を占める一方で、先進国であり不動産投資額も大きい日本がこの位置に留まっていることは異常ともいえます(過去3回の日本の総合順位は26・25・26位であり上昇してはいます)。
20位前後に甘んじている理由の一端として、取引価格(成約価格)を代表として不動産情報の未整備な状況もあります。
一方で、アメリカやイギリス、フランスなどの欧米諸国やシンガポールや台湾などアジア諸国も含め、取引価格を登記簿などに記載して公開しています。例えばヨーロッパでは、土地は国民全体の公共財産であるという考えが根付いており、価格情報も公開・活用する風土が醸成されています。
日本の不動産市場は閉鎖的という指摘が度々なされており、国も透明度の高い市場形成に取り組んでいます。
登記簿謄本に売買金額を記載する案も。リアルタイムに情報取得できる環境を整備
欧米などの不動産先進諸国では、成約価格情報が公開されている国が多く、スタンダードとなっています。
日本でもその流れについていき、閉鎖的といわれる日本市場が「合理的な市場価格形成がなされている」と認識され、市場の活発化につなげたい想いがあります。
その案として、登記簿謄本に記載するというものがあります。
日本では「これは私の家だ」と所有権を主張する第三者への対抗要件として登記するという側面があり、このような移転登記は義務ではありません。現在の所有者ではなくなっていても、謄本上そのまま放置されているケースも少なくないのです。
このような事情から、不動産登記法を改正するなどして、リアルタイムの情報を取得でき、さらにそこに取引価格も記載できるようにして透明度の高い市場を作ろうとしている動きもあります。
ビッグデータ活用で「取引価格」と不動産取引との関係性・価格メカニズムが解明?
不動産取引は毎年膨大な件数が行われています。
その成約した契約一つ一つに、取引価格があり、不動産の基本情報(住所や階数、容積率・建ぺい率など)やそれに至った個別要因(売主・買主の事情、ローン残債)など、売買目的などがあります。
これらはビッグデータそのものであり、これらを活用・解析することで不動産の関連情報との取引価格との関係性が判明する可能性もあります。
価格メカニズムがより詳細にわかったり、不動産市場の新たな発見やフェアな取引の増加、取引を合理化する有用な方法などが解明されるかもしれません。
不動産会社が価格査定する手間も省け、顧客に向けたサービス充実に時間がさけるようになるかもしれませんね。
成約価格(取引価格)のまとめ
公示地価や路線価など、公的な鑑定価格はありますが、実際にどんな価格で売買されるかとは直結しません。
そして、その成約価格(取引価格)を網羅的に集めたデータベースも現在のところないのが実際のところです。実際の取引実態や過去の価格履歴を個別具体的に知ることなく売買を行っているのです。
世界的にみて不動産投資額や経済状況でいえばトップクラスに入る日本。しかし閉鎖的な不動産市場はその透明度において、海外投資家からは評価が低いのです。
今後、取引価格を公開することのメリットが広く国民に理解されれば、より効率的で活発な不動産市場が開け不動産会社の質の向上まで期待できるかもしれません。
ただし、そこにはプライバシーへの考え方など個人の感情の問題もあります。今後の動向に注目したいですね。
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